第29話 ステータスオープン
「ステータスオープン」
こちらの選手と相手の選手のプロフィールが表示される。
今日こちらのチームでツイテいるのは三番の京か。これは手が付けられないぞ。それで、ツイてないのは ファーストの葉月とピッチャーの雪乃か。これは面白い。ピッチャーがついてないと試合がどうなるか分からないぞ。別にピッチング自体が変わるわけでないが、どこか歯車がずれたような状態が発生する。今日はそう状態でチームの力を図るのが目的だ。そういう訳で、葉月はベンチで桜を一塁に入れ、先発は左の雪乃に決める。
相手チームは、ツイテいるのが八番でツイてないのが三番か。ツイテないのが一人なのは、レギュラーではずれているのが最近調子を落としているらしい。
それで、ステータスの***の部分が開いていて、ピッチャーの決め球はアウトローというかアウトコース一辺倒で、塁に出ればとにかくバント、守備は鍛え上げられ、エラーがほとんどなく、無理なことはしない無駄な進塁を許さないガチガチの守備のチームと書かれている。
古豪というか伝統校に多いスタイルだ。木製バットからの時代を引きずり、新しい野球に対応できない。もっともこの異世界、金属バットが使われ出したのは、五年前からだという。結局、今は高校野球のレベルアップの過渡期だ。それで、芯を外す小さな変化球があまり認識されていないのである。
それでも古豪は、高校の名前で相手を威圧し、観客を味方に引き入れ勝利を手にする。
観客の多い甲子園では常套手段だ。
さて、試合前の挨拶が始まる。
「「「「「お願いします」」」」」
やはり、省略なしの挨拶で、守備位置に全力疾走していく。
このチーム、やはり侮れない。審判や観客を味方にする躾(しつけ)、そしてネームバリュー。
しかし、こちらも今、注目の野球少女だ。審判や観客をどちらが味方につけられるか勝負だ。
初回、こちらの攻撃の前に円陣を組み指示を出す。
「アウトコースを見極め、踏み込んで打て。インコースはほとんど投げてこないぞ」
「「「「はい」」」」」
そして、一番、陽菜は、初球、アウトコースを見送る。
「ストライク」
主審の判定はストライクだ。結局、アウトコースの球に腕が伸び切り当てるだけのバッティングでサードゴロに倒れる。
二番、美咲、三番 京も同じように、アウトコースを見送ったあと、ストライクの判定を受け、同じようなバッティングでアウトになっている。
確かに、相手の投手は一三〇キロ足らずのスピードながら、直球、変化球ともに制球が良く、アウトローに正確に投げている。しかし、各タイプの一流プロの選手をトレースして、ゴルフボールの特訓で目が慣れてきているうちの選手が、ここまでバッティングフォームが崩される原因は一つしかない。
ベンチからでは良くわからないし、うちの子たちには審判を非難する態度は一切厳禁にしている。
しかし、きっとボールを打たされている。
キャッチャーがあらかじめ、ボールひとつ外れたところにミットを構える。その構えたところに寸分たがわずボールが来れば、主審は思わずストライクと言ってしまう。体操などでいう技術点の加点だ。しかも、古豪の投手は歴史的にコントロールのいいピッチャーが多い。荒れ球のすごいピッチャーより、基本に忠実なピッチャーの方がチームカラーに合っていて守備も守りやすいからだ。
そういう、ネームバリューも合わせ、主審にコントロールの良い投手と刷り込まれ、アウトコースに甘くなっている。
次の回から支持を変えないと。
「自分がボールだと思う球は振るな。それで見逃し三振ならその三振を誇りに思え、胸をはって全力疾走でベンチにかえってくればいい」と。
そして、バッテリーを呼び指示を出す。
「相手が見逃したきわどい球は、主審はボールと判定すると考えろ。たぶん2ストライクまではほとんど降ってこないから、甘い球でストライクを稼げ。遊び球は無しだ。追い込んだら、汐里頼んだぞ」
地元の審判だと、古豪チームの特徴と考えられている点と合わせ、きっと相手チームは選球眼がいいと刷り込まれている。
雪乃、きわどい球をストライクに取ってもらえないなんて早くもツキのなさ全開だ。
しかし、やはり汐里は頭がいい。最初に伝えた打者の苦手コースでカウントを稼ぎ、狙い球と反対の球で、タイミングを外し、打者を打ち取っている。
さすがに、苦手コースを初球から打ってくる奴はいない。それに、雪乃もストライクゾーンを四分割で投げ分けるコントロールを手に入れつつある。
一番、二番、三番を軽く打ち取り、ベンチに戻ってくる。一回の攻防が終わった。
それから、両チーム五回まで0対0で試合が進む。
こちらのチームは付け入る隙が全くない。見逃し三振も増えている。時々入るストライクゾーンにくる球をきっちり打ち返してはいるが三安打しか打てていない。
しかも、ボールをストライクと言われることが分かっているので、作戦を立てて動くこともできない。
相手チームも同じで、二ストライクまでは待球作戦、ヒットがでても、タイミングが合っていないため、所詮単打だ。次に来るのが送りバント、2アウト以外のアウトカウントでは必ずしてくる。
うちの子たちは、野球はアウトを重ねるゲームと割り切っているので、ピンチでわざわざアウトをくれる作戦なんてまったくプレッシャーを感じない。そのため、古豪独特の圧力に屈することなく、守備が崩れて得点を与えるようなことはない。
その結果、五回まで0対0なのだ。
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