第27話 俺が、この天翔女子学園に監督として就任してから
さて、俺が、この天翔女子学園に監督として就任してから二か月余りが過ぎ、夏の県予選まで一か月を切った。
甲子園強豪校との練習試合以降も週末には、県内の高校との練習試合を行い、いまだに負けなしの快進撃を続けている。
まずは投手だが、雪乃と光希の二人とも、スピードはあの日ではなくても、MAXで一二〇キロ台が出るようになり、変化球もタイミングを外すスローカーブに、鋭く落ちるシンカーと二段に落ちるとも言われる宜野座カーブを持ち球に、コントロールもストレートはストライクゾーンを四分割で投げ分け、変化球も低めに投げられるようになっている。
すごい成長だ。しかも、シンカーは指でひっかく強さを調整して、手元で小さく曲がるシンカーと大きく落ちるシンカーを投げ分けることができるようになってきた。これも、幼少のころから体幹をしっかり鍛え、指先の力が強く、しっかりボールを握って投げられることが、この成長の早さの要因だろう。
この世界の高校球児の投手の平均以上だ。
そして、打撃だが、それぞれの体の使い方のタイプの打ち方を究めつつあり、マスコットバットの素振りもしっかり振れるようになっている。ボールの軌道も周辺視を使って捉え、タイミングの取り方もシンクロ打法を使って、一四〇キロ台のストレート、それから変化球も、しっかりバットの芯でとらえることができるようになってきた。
長打は少ないが、試合の流れを読んで、畳みかけるような攻撃で得点を重ねる。その中でも、中心は三番の京で、あと拾いものだったのが、一番陽菜、七番葉月、ベンチスタートが多いが、桜だ。それぞれ中学までのスポーツ分野で実績を積み重ねているだけあり、陽菜は足を使い、葉月と桜は、周辺視と洞察力で球種を見極め、体に染みついた反射神経でボールを的確に打ち返している。
守備は、取れる球を確実に取るを基本にしているが、みんな、守備範囲がどんどん広くなっていて、連携プレーも的確で、基本に忠実に、次の塁に簡単には行かせない守備を披露している。
これらのことができるのは、投手の持つリズムと野手のリズムがシンクロしていて、守備位置で完全にリラックスしている状態から瞬時に打球に反応できていることが、球際に強い守備を造り出している。
走塁は、全員五〇メートルを六秒台で走り、タイム的には、陽菜を除いては高校球児の平均的なタイムだが、グッとかドンといった加速ではなく、スーッとかサーッといった加速で、重力を感じさせないスタートとそれを補うスパイクパターンで、塁間の速度は高校球児の平均より一歩は確実に速い。
それらをしっかりまとめるのが、キャッチャーの汐里だ。
洞察力と観察力で相手チームの作戦を読み、打者の狙い球の裏を斯いて、きっちり試合を作ることができる。キャッチングや肩も良く、盗塁も事前に気配を察していて、何度もチームの危機を防いでいる。
そういう訳で、現在はチームのキャプテンをしてもらっている。
もちろん、これらの事を成し遂げるのは、俺の居た世界ではかなり難しいだろう。しかし、異世界では、女性のメリット上方補正されているため、右脳と左脳のバランスが良く、周辺視が日常的に使え、イメージトレーニングが効果を発揮しやすいためパーフェクトボディコントロールに長けていて、観察力や洞察力に優れている。
さらに、関節の可動域が広く筋肉が柔らかくしなやかで、それを作り出す男性ホルモンの上位置換のテストステロンZの働き。内緒だが、俺はこのテストステロンZという筋肉増強ホルモンを密かに研究している。
これらが快進撃の要因だろう。しかし、そのことでちょっとした問題が起こっている。
そう、ちょっとした問題とは、マスコミの取材の申し込みであった。
今年、初めて女子高生に甲子園の門戸を開いたが、この県では、女子だけのチームはこの天翔女子学園一校で、女子高生の選手登録者数も百人足らずであり、レギュラー入りしている女子高校選手も中堅高校以下の所に一握りの状況である。
他の県でも同じような状況で、甲子園で女子高校生が活躍するような場面はまだまだ先だろうと予測されていた中で、今年、春の選抜でベストエイトのM校を練習試合とはいえ破り、しかも、選抜で注目を浴びた投手を打ち込んだ女子チームということで、俄然、注目を集めることになったのだ。
しかも、一回だけ、高校野球の話題を中心にしているスポーツ雑誌にチームの紹介記事と写真が載ったところ、全員が美少女ぞろいということで、さらに注目を集めることになってしまった。
こうなると、マスコミの取材攻勢が始まる。取材の申し込みに対して、天翔女子学園の理事長は、学園の宣伝になるからということで極力受ける方針であり、今や、野球部専用グラウンドの周りは、練習中では、マスコミ数社が常にうろうろしている状態なのだ。
ここまでされると、俺の芸術的ノック(自画自賛)は、テレビに映されるは、練習メニューは公開されるはでまったくいいことがない。
さすがに、宿舎までは取材許可が下りていないので、プライベートまでは入りこまれていないし、レッスンルームとかトレーニングマシンはまだ秘密になっているが、さらに、テレビ局が甲子園出場までの軌跡を、密着取材したいと申し込んできているのだ。
しかも、これに対して理事長が必ず受けるように言ってきたのだ。
「木庭さん、この密着取材、断ることはできませんか? 」
「無理でしょうね。もともと高校野球に力を入れている高校は自分の高校の宣伝という部分が大きいですから」
「でも、そんなのを流されたら、このチームの強さの秘密が丸裸になりますよ(まあ、俺の持つ異能を除いてだが)」
「そこは、報道する内容によりますよね」
「いっそ、生徒たちの入浴シーンだけ取らせてお引き取り願いますか。水戸黄門でも、お銀の入浴シーンが一番視聴率が取れたらしいですし、テレビって視聴率が取れたらなんでもいいんじゃないですか? 」
「あんた、バカなの! 生徒にそんなことさせるわけないでしょ。それに水戸黄門っていったいなんのことなの? 」
(しまった。この異世界では、水戸黄門は放送されていないんだ。冗談として通じないぞ)
「冗談です。誓って冗談です。それにしてもどうしますか…… 」
「それから、例のゴルフボールの特訓、いよいよ設備が整ったのに」
「そうですか。あれをテレビで流されたら、奇抜な特訓以前に、女子高生を危険に晒していると批判が殺到しますよ」
「せっかく、あなたも高校野球の革命者として、歴史に名前を残すチャンスなのに」
「そんなことはどうでもいいんですが…… 」
そんなこんなの議論を重ね、密着取材と言えど、こちらが拒否する場所や場面では取材を中止すること。テレビ番組は報道番組で小出しにするのではなく、ドキュメンタリー風の番組、一本で放映すること。放映する時期は、天翔女子学園が今年の夏、甲子園に出るか、甲子園に出られないが確定した後、こちらの許可を得た内容で放映すること。そして、取材中に知り得たことについての公開は、ドキュメンタリー番組後にすることで契約し了承を得ることができた。
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