第20話 試合後のトンボ掛けで

 試合後のトンボ掛けで、イケメンチームの何人かがこちらのチームの女の子に声を掛けているみたいだが、みんな撃沈しているようだ。

「まったく、しつこいです。コンパしよう。コンパしようって」

 そりゃ汐里、お前の外観だといきたくなるぞ。

「だから言うたった。うちらのチームに負けるような弱いチーム、興味あらへんって」

 桃、相変わらずの毒舌だな。

「ピッチャーさんも私に絡んできて」

 陽菜、初めての長打を打たしてもらっただろ。

「だから、私がすねを蹴ってやりました」

 桜、ちょっとやりすぎ。って俺なんでいちいち心の中で、ツッコミを入れているんだ。

「とくに、一番と二番と六番と九番打ってた人がしつこかったたから、タイプじゃないって言ってやった」

「「「「「私も! 私も!」」」」」

 そうか、あいつら、恋愛運も今日はツキがなかったんだ。

 そして、落ち込むイケメンチームに見送られてイケメン高校を出発したのだった。


 イケメン野球部に見送られ、高校を出た後、お約束のショッピングモールに向かう。

 手短にコールドゲームに終わらせたため、昼前にショッピングモールに着くことが出来た。

 ここで、先にスポーツクラブで講演会をしていた木庭さんと合流し、生徒たちは、ここでシャワーを浴び、私服に着替えさせてもらった。しかし、私服と言ってもそれぞれお気に入りのブランドのジャージに着かえていて、特にお色気があるわけでもない。

 いや、近頃のジャージは、ジャケット風で色鮮やかで、それぞれのタイプに合わせ、みんな綺麗に着飾っている。

 そして、まずは、腹ごしらえからということで、一三名が近くに座って食べられる場所ということで、フードコートに行く。しかし、連休ということもあり混雑していたが、なんとか、席も確保でき、みんなそれぞれ、好みの店に三々五々向かっている。


 そして、俺はなぜか雪乃と桜に付きまとわれていた。

 この雪乃、新体操していため、スタイルはどこに出しても恥ずかしくなく(←どこに出すんだ?)、普段は、肩までの髪をポニーテールにまとめ、くっきりとした二重のまぶたで、笑うと八重歯が出る可愛いタイプで、励ますのが上手い男をのせるタイプだ。

 そして、桜は、ショートカットで中肉中背、空手の演武のように、動きに切れがあり、立ち居振る舞いがいちいち美しい。顔もきりっとした眉毛に凛とした大きな瞳で、凛々しく、ユーチューブで可愛すぎる空手家として、県大会で優勝した時には話題になったこともある。

 この二人に付きまとわれて、嬉しく無い分けがないが、俺はみんなの席を確保しつつ、どうしたものかと考えていると、ハンバーガーのセットを持った二人が帰ってきて、俺の前に座った。

「あれ、監督は食べないんですか?」

「いや、木庭さんにラーメンを頼んだ」

「えー、なんかオシャレくない」

「いいだろ、ラーメンが最高なんだよ。ここのラーメン、チェーン店の割には美味しいんだよ」

(前の世界では、常連だった。しかも留学時の貧乏生活でハンバーガーは食べ飽きているんだよ)

 そこに、木庭さんが頼んだラーメンを持って帰ってきた。

「川口さん、菊池さん、監督と何の話をしているの?」

「部長、聞いてください。今日、私たち試合に出して貰えなかったんです」

「えー、桃は下段回し蹴りが出せたからまだましよ。私なんて、イケメンに「今日、君のピッチングが見られなくて残念だ」って言われたのよ」

「ああ、あれは綺麗に決まったわ。ベンチで陽菜と約束していたしね。それより、監督なんで、私たち試合に出してもらえなかったんですか? 」

 出しそびれたが本音なんだが。試合があまりにも順調で出す場面がなかった。練習試合なので全員使いたかったのだが、どう答えようか?

「お前たちは、このチームの切り札であり、秘密兵器なんだ。あんな一方的な試合で使うわけにはいかない」

「そっか、私たち秘密兵器なんだ」

 すると、木庭さんがニヤニヤしながら言った。

「秘密兵器って言われて、三年間ずーっとベンチで秘密のままだったっていう、野球部あるあるもあるからねー」

「えー、監督、次の試合は出してよ」

 俺の腕を両側から掴み、上目遣いでお願いしてくるので、思わず上ずった声で答えてしまった。

「わかった。次の試合は二人ともスタメンでいくぞ」

「やった。監督、約束よ」

 二人はハンバーガーを食べ終わると、みんなと一緒にショッピングに出かけて行った。

 俺は、ラーメンをすすりながら、

「木庭さん、監督の起用方法について、選手が直接批判することって多いんですか」

「いいえ、あまり聞きませんね。いいじゃないですか。今の批判って言うより、可愛いお願いでしたよ。それより、野球部としてジャージを統一したほうがいいですね」

 そうか、今のはお願いなのか。監督として選手を平等に扱うことは一番難しい。今日などは、ベンチにいる彼女らの気持ちに気が付いていなかった。直接、不平を言ってくるだけに、こちらも気を付けなければいけない。直接、物が言えるのも女の子特有の性格だな。 

 それより、木庭さんの発言で思いついたことがある。

「そうです。木庭さん、折角ですから、野球部のジャージ、オリンピックの日本代表選手のジャージとお揃いでどうですか? 」

「それ、良いですね。やっぱり、服装は揃ったほうが強く見えます。それが日本代表となると、すごく強そうですね」

 よし、天翔女子学園 野球部のジャージを作ることに決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る