第19話 さて、ここまでで気づいたかもしれないが

 さて、ここまでで気づいたかもしれないが、得点しやすい攻撃パターンとして、ノーアウトとワンアウトの場合は、ランナーが詰まることなく三塁に居ることを目指して攻撃するように指示している。すなわち、三塁、一塁三塁か、二塁三塁かである。

 もう一つは、二アウト二塁、こちらは、投球コースが二塁上から見えて、スタートが切りやすくワンヒットでホームまで帰ってくることができるからだ。

 こうなるために、自分が何をすべきなのか考え、決めたらそれに集中することを、このゴールデンウィーク中は指導してきた。みんなきちんと理解していることが、こちらからのサインなしでできていることが証明している。いい選手を持ったとつくづく思う。


 一回裏、イケメンチームの攻撃は?

 今日の、光希はあの日で絶好調である。

 光希の容姿は、背中までのロングヘヤーに、つぶらな瞳、ちょっと厚めの唇に色気を感じる。バレエという演技力の必要な競技が彼女に見せるべき色気を醸し出し、スタイルも人目を引くほどバツグンである。

 一番打者は、第一球、第二球とも、流れるようなファームのアンダースローから放たれる一二〇キロ台のストレートを見逃している。

 三球目、同じストレートを完全に振り遅れて三球三振だ。

 一番打者がベンチに帰り際、次の打者に耳打ちしたところで、警告音がステータスから鳴った。

 はあ、このワンプレーが勝敗を分けるプレーなのか? ステータスを見ると一番打者の***の所が、表示され。耳打ちの内容について書かれていた。作戦もステータスでわかるとは都合がいい。

「おい、あのピッチャー、巨乳が邪魔して球の出どころが分かりにくい。気を付けろ」

 はあ、こいつバカだ。胸で球の出どこが隠れるわけないだろう。体を割った時、右手と左手が一直線上にあり、そのあと右投手なら、左手を強く引きつけ綺麗に折りたたむことと、右手を頭の後ろ(ギリ)の付近に引きつけることで、体が開かないように閉じ、小さい半径から素早く体を入れ替えることと、その際、右肩から肘をいかに遅らせて出てくるかで、球の出どこを見にくくしているのだ。

 この試合、勝った。相手チームは、この試合中ずっと光希の揺れる胸に気を取られ、ボールを打つどころではないだろう。

 一回の裏、俺の思惑通り二番、三番は、振り遅れで簡単に三振して、チェンジだ。

 二回の表、こちらの攻撃は九番の光希からだ。イケメンピッチャーはやっとエンジンがかかったのか、一三〇キロ近いボールを投げだした。

 光希はややベースから離れて構えており、バットの先でボールを捉えたが、内野フライでワンナウトだ。仕方ない野球を始めて一か月、しかも、ピッチング練習が主で、バッティング練習はほとんどしていない。バント練習だけだ。

 一番に帰って、陽菜の番だが一三〇キロの速球を打ちあぐんでいる。なんとかバットには当てるが、前に飛んで行かない。

 あ、飛ばすことをあきらめたみたいだ。ここが走ることを目標に野球をやっている陽菜の強みだ。きれいなヒットと欲をかかず一塁まで走ることを優先する。

 思い切り叩きつけた打球は、ホームベース前で大きく跳ね、三塁手がダッシュするが一歩及ばず、そこでショートバンドになりグラブをはじく。

 その間に、陽菜は一塁ベースを駆け抜けている。

 ワンアウトランナ一塁、攻撃パターンからいくと二アウト二塁か、ワンアウト一塁三塁どちらを目指すのか。陽菜と美咲のサイン交換は?

「ランエンドヒット」

 しかし、速球だと打ち上げる可能性もあるぞ。

 そんな、心配は稀有だった。持前の配球読みから、一ボール一ストライクから外角のスライダーにうまく合わせ、一、二塁間にボールを転がす。一塁がベースについていたこと、(陽菜は脚が速いからな)スタートを切ったことでセカンドがベースカーバーのため、二塁方向に動いたことで、広がった一、二塁間を抜き、ゴロはライト前に転がり、スタートを切っていた陽菜は三塁ベースにスライディングしていてセーフだ。

 ついてない美咲がここまでやるとは、野球とはつくづく相手のあるスポーツだと思って、ステータス画面をみると、不運の表示が消えている。初回の相手投手との不運合戦に勝って運を取り戻したようだ。

 しかし、ここまで配球が分かると作戦もズバズバ決まる。女性の洞察力が恐ろしい。

 三番京は、スクイズ警戒の中、配球を読み切り、ストライクを待って、きっちりスクイズを決める。

 京は野球に対して本当にまじめだ。スクイズを決めることで、一点取って、二アウト二塁。ヒットの出る確率が三割に対して、ここまで配球が読めれば、スクイズの成功する確率は八割以上だろう。ヒットが出なければ、最悪ゲッツー、二塁でアウトになる確率も高い。

攻撃が止まらないように考えて、決めたらそれに集中する。前の試合の教訓が生きている。

 四番麗奈だ。このタイプはある程度、速球についていける。思ったとおり詰まりながらもレフト前にボールを落とし、二塁から美咲も帰って来た。

 そのあと、攻撃が続かなかったが、二回表を終わって六対〇。

 二回裏の攻撃も、イケメンチームは全く打てない。光希の揺れる胸に翻弄されている。

 その後も、こちらは追加点を挙げるが、イケメンチームは光希のアンダースローにまったくタイミングが合っていない。四回からプレートの踏む位置を変え、さらに、ボールの出どこをわかりにくくし、クロスファイアー気味にストライクゾーンを横切るような錯覚が起きていることだろう。

 スローカーブも要所で使い、うまくボールを打たせて、ゲッツーも二回取っている。

 危なげなく七回まで完封して、試合は九対0で勝った。


 イケメンチームには申し訳ないが、これ以上続けてもこちらに得るものはないと判断してコールドで切り上げさせて貰った。

 この後、お楽しみのショッピングモールの探索もある。


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