第15話 第二試合目は、県ベスト一六の相手だ
第二試合目は、県ベスト一六の相手だ。とはいえ、特に強豪という訳ではない。
地区予選の対戦の組み合わせで県大会本選に勝ち上がったチームで、まあ、中堅どころだ。
しかもオーダーを見る限り、一軍と二軍の混合チームになっている。
ステータスを見る限り警戒するのは、クリーンアップだけだが、幸いなことに、四番にツキがない。もっとも、クリーンアップが全員、調子がいいことは試合ではほとんどない。
投手も二番手で、ストレートは一二〇キロ超、持ち球はスライダー、ツーシームと緩急があまりない。
しかも、それなりに上を目指しているチームほど技巧派に弱い。
それに、この試合はこちらの投手の球数の関係で六回までの消化試合にしても貰っている。相手チームにとっては個々の選手の力を試す試合に位置付けているはずだ。
という訳で、こちらの作戦は先制逃げ切りだ。さいわい先攻が取れたし、例の最中である緒方、高橋、そして、先ほどの試合できっかけをつかんだ前田が、一番、二番、三番だ。
一回表、一番緒方は、積極的に打ちにいって、スライダーをひっかけセカンドごろになった。幸い当たりが弱く、ボールとのスピード競争になったが、一塁はクロスプレーでセーフになった。
試合を通じて全力疾走していることと、脚の速さが審判にインプットされていることで技術点が加算された感じだ。
緒方は、高橋の一球目をすぐさま盗塁。バッテリーは警戒してウエストしていたが、捕手が焦って、送球がそれたため楽々セーフだ。
緒方の足の速さが焦りを誘った感じだ。忍者のようにスーッと来て、もう二塁手前にいる。力強さを感じないのにスピードが乗っている不思議な走塁だ。これが女性特有の短距離走の走り方でなおかつ筋力が通常の一.五倍だ。確かに男と比べて違和感が半端ではない。
高橋がバントの構えからボールをしっかり見極める。追い込まれてからもバスターでファールを打ち分ける。嫌らしいやつだ。
ここで、ステータスから警戒音が鳴り響いた。どうやら、相手の投手が根負けしたらしい。
ボールは大きく外れて高橋は四球で歩いた。
バントさせてアウトを取ろうとして取れなかったのは痛い。落胆の後、気持ちの切り替えができず、前田に投げた一球はストライクを取りに来る甘いストレート。初球から行くと決めていた前田は、思い切りひっぱってファーストの頭上を抜ける二塁打になった。
当然、緒方は帰って一点先制。なお、ノーアウト二塁三塁。
相手投手メンタルが弱すぎるぜ。このくらいで気持ちが折れるなんて。だから二番手なんだろうが。相手チームの監督も渋い顔をしている。
(そのまま、動くなよ。この試合は、個々の力を試す試合だろう)
そして、四番、菊池、守備が心もとないため補欠に回ってもらっているが、打撃はなかなかのものだ。
もともと、空手ではカウンター攻撃が得意だったようで、相手の動きに合わせ、カウンターを打ち込み、県大会を制したらしい。
きっと、相手の動きを読み予測することが上手かったのだろう。そしてこれは、相手に対するセンサーが鋭敏で、周辺視が呼吸するように使えるということだ。
そして、スイングはまさにカウンターで、パンチショットのように、最小限の動きでボールの軌道に合わせてボールを打ち抜く。
きれいに合わせた打球は、投手の頭上を抜け、センターの前に落ちる。
高橋、前田が帰って三点目だ。しかもノーアウト一塁。
正田はどうするかな。ステータス画面の流れは、若干、相手チームが持ち直している。
心が折られてから、ずーっとスコアリングポジションに、ランナーが居たのが、いなくなったからだろう。
試合自体は決まっているからどうでもいいが、この試合は苦戦したくない。
もう、投げ急ぎもないだろう。
すると、正田からサインが出た。「打ちたい」だ。
今日の試合は、選手任せにしている。一塁の菊池もまだ野球を始めて一か月足らず特に思うこともなく肯いている。
うーん。ここは、送りバントでもう一度揺さぶりたいが本音だが。まだまだ、共感できないか。
正田は、初球、ボール気味の球をひっかけて、ショートごろゲッツーに打ち取られた。
気持ちが持ち直せば、バント警戒、ボール気味の変化球から入るのが定石だな。気持ちが先走り配球を読まなかった正田の敗因だ。
次の打者も、打ち取られ一回表の攻撃は終わった。
一回裏こちらの守備は、投手は川口、左のアンダースローで、ボールの出所が分かりにくく、しかもボールが長く持てる。
相手チームの一、二番はタイミングが合わず内野ゴロ。強打者の三番も、左打者のため、背中からくるようなボールがクロスファイヤー気味にアウトコースに逃げていく。
泳ぎながら、当てるのがやっとでピーゴロで、三者凡退で終わった。
試合は、エラーやヒットは出るもののお互い要所をしめ、四回から継投で、大野に代わり六回を0点で抑えた。
試合の結果は、3対0だ。お互い、監督は特に動くこともなく、初回の攻防以外は淡々と試合が進み、試合の流れは一回以降若干こちらが有利なだけで、結果的に、一回のあの一球がボールにならなければという試合だった。
もし、九回までの試合なら、あそこで試合の勝敗を分ける一球として警告音は鳴っていなかったかもしれない。
そして、今の所、大野も川口も一巡は十分にいけるという感触を得た。
出会いがしらを心配したが、一試合目のあの四番の三塁打だけだった。
もう一つ上げるなら、衣笠を引込めたのは、彼女は攻撃特化型の性格だ。前田のような自分のバッティングを究めるという本質がない。「チャンスになれば、打ちたい、打ちたい」の結果こだわり型のため、たぶん不運を振りきれない。そう考えて、二試合目は補欠に回ってもらったのだ。
とりあえず結果は二勝、あとは、ミーティングで今日の反省点を説明するだけだ。
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