異世界野球事情「女子高生は女の武器で甲子園を目指す」

第14話 七回表、こちらの攻撃は

　七回表、こちらの攻撃は、七番の黒田からだ。今日ヒットが出ていないが、振りが鋭く、ボールを捉えている。今の流れなら……。

　ファーストストライクを積極的に打ちに行って、きれいにセンター前に打ち返した。

　八番、西山は今日は調子がいい、相手チームも例の違いは分かっているのだろう。　木庭さんがこの世界の常識だって言ってたはず。

　警戒しているのか、ボールが先行する。きわどいボールをしっかり見極め、四球で歩いた。

　ノーアウト一塁二塁。次の打者は投手の川口だ。

「バントします」川口の出したサインだ。俺と完全に共感している。この流れでチームメイト全員の考えが一致している。

　俺は確信した。「失敗するはずがない」

　相手バッテリーも警戒しているが、配球を読んで、しっかり三塁手に取らせるバンド決めてワンアウト二塁三塁にする。

　相手の監督が、タイムを取り、支持を出している。

　おおかたスクイズ警戒、外を突いて最後は歩かせてもいいぐらいの指示か。

　相手がステータスを見て緒方のツキを知っていたら、ここはきっちり敬遠なんだが。

　絶好調の緒方は、その作戦は直感で見抜いていた。外角の球に絞り、しっかり踏み込んで、前進守備でヒットゾーンの広がった三遊間を綺麗に抜いていく。しかし、外野はバックホーム体制で前進守備だったため、セカンドランナーはホームに帰れず、ワンアウト一塁三塁だ。

　二対二同点だ。本当はツイてる緒方で逆転したかったんだが。それにしても、配球の読みもばっちりだ。

　二番、高橋も今日は例の日だ。試合の流れはまだこちらにある。ここは流れに乗ってヒッティングだ。

　高橋は、高めの球をきっちりレフトに打ち上げて、タッチアップで西山がホームに帰ってくる。

　三対二。逆転はしたが二アウトランナー一塁。最低限の仕事だけはした感じだ。

　後は、運に見放されている前田なんだが。当たりだけはいい当たりをしている。別にスランプという訳でもない。こういう場合はちょっとしたきっかけで大当たりする場合がある。

　賭けに出るか。これで前田がツイてない状態から脱出できるかどうかはわからない。それでも、ネクストサークルにいる前田に声を掛ける。

「いい振りしているぞ。前田、お前、やんちゃになれ」

　本当は無心に成れと言いたい。でも、無心になろうとしてなれるものではない。それに、俺の感覚的なもので、データの裏付けがあるわけではないが、大体ラッキーボーイの素質があるのはチームのやんちゃ君で何も考えていないやつが多い。監督も期待していなくて、いいとこで打つからラッキーボーイになる。そう、普段から打っている奴をラッキーボーイなんて言わない。感情的な部分がラッキーボーイという虚像を作り上げている気がしている。

　そう、前田に俺は何も期待していない。もはやお前は俺からしたらやんちゃ君なんだ。だからお前もやんちゃになれ。

　前田が頷き打席に入った。前田からオーラが立ち上っているのが幻視される。

　前田モードに突入した。もともと前田は野球に対して真面目でチームのためにとか考えすぎる。お前は相手がどうとか考えず、自分の打撃を究める求道者だ。

　所詮、野球の運不運は相手がいて結果で成り立つのだ。自分の事だけ考えろ。

　初球、警戒音が鳴り響く。このワンプレーどちらに有利の転ぶのか？

　前田が完全な脱力状態から、バットを振り切った打球は左中間を抜けフェンスまで転がっていく。一塁に居た緒方は一気にホームまで帰ってくる。三塁打だ。

　前田が、三塁ベース上で、自分の手を見つめて感触を確かめている。

「チームのために、ここで打ちたい」という気持ちを捨てた前田の勝ちだ。自分のスイングだけを考えていたことだろう。試合は決まった。相手チームの心の折れた状態で、トドメを指す。

「代打、菊池」

　コントロールが定まらなくなった投手から、菊池も、甘く入ったストレートをピッチャーの足元を目掛けて撃ち抜く、打球は、二遊間を抜けていき前田をホームに迎え入れた。

　五対二　

　さすが、空手家カウンター攻撃が得意だ。

　そこで、攻撃が終わり、後は、左のアンダースローの川口が相手を翻弄し、七回、八回、九回を押さえスコアーボードに０が並び、俺たちは勝った。

　相手チームの言い訳が聞こえてくるようだ。

　まあ、俺がリセットボタンを押さなければ、平常心では川口はマウンドにたてなかっただろう。こちらの気持ちが折れて、なにをやってもうまくいかず、ずるずる負けていたはずから、言い訳したいのもわかる。

　しかし、前田の件では俺も勉強になった。運不運は結果に対して思うことなので、結果を考えず無心で挑めば道は開けることもあるということだ。