第13話 一回表の攻撃が終わり、攻守交代だ

 一回表の攻撃が終わり、攻守交代だ。 

 ステータスの試合の流れを見ると、相手チームにやや流れが傾いている。

 当然だろう。ノーアウト一塁三塁、大量失点を覚悟する場面だ。相手チームのクリーンナップをゲッツーとひっかけさせて抑え、最少得点で切り抜けている。

 ピンチの後にチャンスあり。割とある野球の流れだ。

 逆にここを押さえると、流れはこちらに戻ってくる。

 さて、大野の出来次第なのだが?

 大野は、球速は一一〇キロそこそこ、スローカーブも八〇キロほど。本当はもう少し球速差が欲しいところだが、投球フォームの変則さがそれを補ってくれるはずだ。

 向こうも大した投手でないとのことで、積極的に打ちに来ている。しかし、一番二番打者とも、懐に差し込まれた形で、力のない内野ゴロに打ち取っている。

 よし、計算通り相手は戸惑っている。


 俺はボールの伸びについて二通りあると考えている。

 一つは、初速と終速の差が少ない物理的に伸びのあるボールと、もう一つは、ボールの出所のわかりにくさや球離れが遅いため、投げた瞬間ボールのコースがすぐに判別できず、気が付くとそこまでボールが来ている状態の時だ。

 初めて見た時は、俺も驚いた経験がある。ベンチから見ている分にはなんの変哲もない球なんだが、バッターボックスから見ると、打とうと思った時にはもうそこまで来ているんだ。きっと脳がコースを判別するコンマ数秒、遅れる間にボールが手元に来ていて、それを伸びがあると勘違いしているのだろうと考えている。

 三番も一ボールから簡単にセンターにイージーフライを打ち上げた。

 キャッチャーの西山も勘がさえて、相手の狙いを外している。


 一回の攻防はこちらが有利に進んでいる。

 試合の流れも五分に戻っている。

 二回表のこちらの攻撃は、正田、黒田、西山ともに、凡打で、三者凡退で終わっている。

 二回裏の相手の攻撃は、四番からだ。スローカーブを綺麗に打ち返され、センターオーバーの三塁打を打たれた。

 しかし、あそこまで飛ばされて、三塁ベース上でクロスプレーになる当たり、みんな次のアウトを考えて、きっちり中継プレーが出来ている。

 そう、打たれるのは仕方ない。その後のプレーで試合の流れが変わるのだ。

 しかし、あの四番、懐までボールを呼び込んで、ボールを見極めて打っている。あのタイプには緩い球は通用しない。こんな奴が、なんでこんな弱小チームに居るんだ。

 今日は、うちの現在の投手の出来とでは、役者が違いすぎる。こいつからアウトを取るのはあきらめた方がいい。

まあ、夏の大会までには、大野も川口もウインニングショットを完成させるつもりだ。

 しかし、五番は相手チームのラッキーボーイ。チャンスに回ってきてきっちりレフト前に打たれた。

 一対一同点だ。しかし、六番はツキから見放されている。こちらの注文通りゲッツーを打ってくれた。七番も凡打でチェンジだ。

 その後は、お互いランナーを出すものの決定打が出ず、一対一のまま六回まで進んできた。

 大野マジックも、二順目からは通用しなくなってきている。西山が上手く狙い球を外す上手なリードでピンチをしのいでいる。

 六回の裏、ワンアウト一塁から、ステータスからの警告音が鳴った。二番に大野が投げた一球は快音を残し、三塁、衣笠の頭上を越えレフト線に転がる。

しかも、レフトの前田が中継を焦るあまり、クッションボールを誤り、一塁ランナーがホームまで帰って来た。中継の正田がバックホームをせず、打ったランナーをセカンドで止めたのはナイス判断だ。

 一対二。

 しかし、前田のツキの無さは重症だ。試合の流れは大きく相手に傾いている。

 ここで、普通の監督なら、一拍おいて流れを止めようとするが、実際はタイムを掛けようが、投手を変えようが、なかなか流れを止められない。

 俺は、迷いなくReメンタルボタン押す。流れが五分に戻り振り出しに戻る。

 ここで投手を大野から川口に替える。高校野球ではランナーを置いての継投はお薦めされない。浮足立った高校生のメンタル面では成功しないことが多いからだ。しかし、気持ちはリセットされている。

 目先を変えることで、三番はクロスファイアー気味に入ってくる内角高めの球に詰まって内野フライを打ち上げた。これで2アウトだ。ここでタイムを掛け、菊池を伝令に走らせる。

「四番、五番は敬遠で歩かせて六番で勝負だ」

 ランナーが二塁にいて、敬遠満塁策はあり得ない。異世界転生監督だからできる奇策だ。

 今の俺たちのチームでは四番五番は抑えきれない。後は、川口が納得するかどうかだが?

 でも、みんなにこにこしながら俺の指示に従っている。俺自身に迷いが無いからか。リセット効果なのかは分からないがみんな納得している。あとセイバーメトリクス効果もあるだろう。

 指示通り、四番五番を敬遠したあと、六番を三振に仕留め、やっと長い守備が終わった。

 ここで、試合の流れを表すゲージがこちらのチームに大きく傾いた。

 ピンチの後にチャンス有り。今度はこちらの番だ。

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