異世界野球事情「女子高生は女の武器で甲子園を目指す」

第12話 よし、今日の方針をみんなに伝えるぞ

「よし、今日の方針をみんなに伝えるぞ、今日は基本的にサインは無しだ。みんながやりいと思うことをサインで出してくれ。それを見てどうするかはお互いに決めてくれ。

　それから、バッティングはファーストストライクから積極的にいけ。追い込まれると緊張するぞ（最高のパフォーマンスができないぞ）」

　後の指示は本当は緊張なんて関係ない。俺自身が最後の試合がトラウマになって審判を信用できないだけなんだ。

　２ストライクになったらストライクゾーンを広く取れというくらいなら、自分のストライクゾーンに固執しろと言いたい。ボールと思ったなら振らなくていい。緊張してボール気味の球を振ったり打ったりして調子を崩すくらいなら、俺はむしろ見逃し三振を褒めるぞ。だから、ファーストストライクから行けというのは、最初から自分のストライクを打ての言いかえだ。

　ホームベース前に整列がかかるまで、ベンチ前でみんな素振りをしている。

「ステータスオープン」

　まだ、試合前、試合の流れは五分五分だ。各選手の状態を見ると、この試合運がないのが、前田と衣笠か。クリーンアップが試合で打てないのはよくあることだ。逆にツイているのは緒方か。

　相手チームの選手はツイてないのが六番七番、ツイているのが五番か。嫌いなコースもチェックして、打率は高校野球はピッチャーのレベルが違いすぎて参考にしない。

　その他の＊＊＊の部分が一か所開いて、星マークが付いている。選手の動き方を見ているとこれは生理のマークらしい。緒方、高橋、西山か。これは楽しみだ。

　全員審判の前に整列し、礼をして試合が始まる。

　相手チームの「しゃす」に対し、こちらのチームは「よろしくお願いします」ときちんと挨拶が省略ではなくできている。

　一回の表、「緒方、初球から行けよ。」とメガホンで激を飛ばす。

　ちなみに、高校野球では、メガホンが使えるのは監督だけだ。

　緒方は頷きバッターボックスに入った。

　ブルペンでの投球練習を見る限り、右オーバースロー、球速は一一〇キロ強、高校生の平均的なところだ。球種もきっちり変化しているのは、スライダーぐらいか？　あとは遠くてわからん。ああそうか、俺は異能者だった。

　ステータスを見ると、俺の見たままの特徴が並んでいる。あとは、チェンジアップとツーシームだが、キレ等は、平均以下の表示になっている。

　あの転生者と違いブルペンから全開だったらしい。

　初球、外角高めいきなり甘い球が来た。初回は制球もあまり定まっていない。

　緒方は指示通り積極的に打ちに行き、ショート後方にふらふらと上がったフライがヒットになった。

　さすが、本日のラッキーガールだ。

　一塁ベース上では、早くも「盗塁したい」のサインを出している。

　それに対して、高橋は、「ランエンドバスター」しかも初球からか。普通なら先取点が欲しい場面でクリーンアップに回るのでバントもありうる。しかし、俺は前田、衣笠に運が無く、あてにならないのを知っているから盗塁か普通にヒッティングだ。

　高橋は打席で、バントの構えをしている。ピッチャーがセットホジションから、一球牽制を入れた。様子見か。でも、緒方も高橋もそのくらいの事は、すでに動作から察しているようだ。ふたりとも集中力が上がっているからな。

　まったく、二人の動作からは動きのある素振りが見られない。

　騙し合いはうちの勝ちだ。

　ピッチャーがセットポジションから振りかぶると同時に緒方がスタート、バントさせるために投げた甘いストレートをバスターで二塁正面に鋭い打球が転がる。一塁のベースカバーに行っていたセカンドの背中側を抜けて打球はライトに転がる。

　緒方は、らくらく三塁に達している。いいスタートをきっていた。普通の盗塁でもセーフだったかもしれない。

　ノーアウト一塁三塁、もっとも点の入る攻撃パターンだ。

　バッターボックスの前田は、「好きに打ちたい」のサインだ。前田の打力を知っているみんなは「任せた」のサインを返している。

　でも、俺は前田の今日の運の無さを知っている。

　ファースト、サードは前進守備、セカンド、ショートはゲッツーに備え中間守備だ。ヒットゾーンが広がっているがどうだ？

　初球スライダー、２球目チェンジアップの１ボール１ストライクから、内角のストレートを前田は思い切り振る。

　キーンと鋭い打球音が響き、いい当たりのゴロがセカンドの正面に飛ぶ。

　当然ランナーはゴロゴーで、緒方、高橋はスタートをきっている。ボールは四―六―三と渡りダブルプレー。緒方がその間にホームに帰って一点先取だ。

　うん、点が入ったから結果オーライだ。これがライナーゲッツーだと目も当てられない。

　衣笠も、二ボール一ストライクの打者有利のカウントから、チェンジアップをひっかけてサードゴロでチェンジだ。

　ツイてないのを自覚してないと、自分の都合のいいように考えてしまう。

ストライクを取りに来るものだと考えて、狙って打ちに行って外されたか。もちろんツイている時はこれがハマったりするのだが……。

　これは、不調の選手は本人に伝えた方が大きな傷にならなくて済む。心を鬼にして伝えるか？　それで、自分勝手をするようなら選手交代だ。