第11話 日々の練習が反復される

 ◇◇◇


 日々の練習が反復される。いよいよ、ゴールデンウィークが近づいてくる。

 木庭さんの伝手で、近隣の高校二校とちょっと遠いが、日帰りできる高校一校との練習試合を組んでいる。

 最初のオーダーはこんなもんだろう。

 俺は、紙に書きだしてみた。右左は右投げ左打ちという意味だ


1番 レフト  緒方陽菜  右左 元陸上部   足が速くまじめ 

2番 ショート 高橋美咲  右右 元軟式野球  ムードメーカー 

3番 ライト  前田京   左左 元硬式クラブ 求道者    

4番 サード  衣笠梨沙  右右 元軟式野球  攻撃特化   

5番 センター 山本麗奈  右右 元硬式クラブ 長打あり   

6番 セカンド 正田桃   右右 元硬式クラブ 関西弁    

7番 一塁   黒田葉月  左左 元剣道    物静か    

8番 捕手   西山汐里  右右 元軟式野球  好奇心旺盛  

9番 投手   大野光希  右右 元バレエ   リズム感良い 

控え

投手兼外野   川口雪乃  左左 元新体操   体幹     

内野      菊池桜   右右 元空手    瞬発力あり  


 この世界は異世界で、女性の男性に比べて優位な特徴がさらに優位性が上がるナゾ世界である。

 一例を上げれば、筋肉が柔軟でしなやかであり、それに伴い関節の可動域が広い。

 動作が軽やかで、重力をあまり感じさせない動きである。

 最大の謎が、生理中は筋肉の出力が一.五倍になる。何人か実際に見たが、筋肉量が増えるわけでも、それによりしなやかさが失われるわけでもない。力だけが五割増しになっていて、よくある腕力だけの力押しではなく、体のねじりが効いた、弾かれるような力強さである。

 よく言われる全身バネの状態になっているわけである。

 実際調べてみたが、最初の直感どおり、生理中は女性ホルモンが大量に分泌される。それに伴って男性ホルモンが通常より大量に分泌されるのだが、それでも、男性ホルモンと女性ホルモンのバランスが悪いため、テストステロインZという男性ホルモンが分泌されているらしい。このテストステロンZは元の世界には無かったが、通常の男性ホルモンの数倍、筋肉に作用し、強靭な筋肉を作り出すホルモンだという事だ。まるで筋肉増強剤のステロイドの副作用無しの完全無欠版だ。

あと、右脳と左脳のバランスが良いので、脳の使い方も男性と大分違う。

 例を挙げるなら、理論的思考はちょっと苦手だが、イメージ化されると理解が早い。また、体もイメージどおり動かすスキルが高い。

 右脳型のため、周辺視野が広い。

 そして、観察力が鋭く、察する力が男性に比べて非常に高い。だから、直感が働く。

 以上が、いままでの観察結果からこの世界のわかった部分だ。

 このデータ数値をみる限り、前述の分野では前世の女性と比べて二つぐらいギアが上だ。男性に至っては確実に凌駕している。なにせ女性が一〇〇メートルで一〇秒を切る世界だ。

 俺はここまで書いてふと気が付いた。

 あれ、明日の練習試合、普通に勝てるんじゃね。

 いやいや、甲子園までの道のりはまだまだ序盤、このデータを元に勝てる野球をしなければならないのだ


 ◇◇◇


 今日の練習試合の相手は、近隣の高校二校とだ。第一試合目が春の地区大会は敗退で、二試合目は、本選の県大会までいったが、二回戦負けという戦績だ。

 春は、本選に大体四校から二校が進める感じなので、一試合目が弱小校で、二試合目が県ベスト一六ということになる。

 しかし、野球部専用のグランドがあるのは強みだ。弱小校では練習試合のグラウンド探しから苦労する。まして、女子校で私立なので公共のグラウンドはなかなか貸してもらえない。

 そして、こうやって相手校を招待することもできる。

 他の部活と重なって、野球ができるならと新設女子野球部の招待を受けてくれる高校もあるわけだ。

 まずは、このチームの初めての試合だ。可愛い戦士たちにいうことは一つ。

「肩の力を抜け、リラックスして行こう」

「はい」みんな笑顔で返事をする。

 集中には筋肉の弛緩が大事だ。緊張は筋肉を強張らせ初動を遅らせる。みんな指導を通じて弛緩の重要性は分かっている。それにより、次のプレーで最高のパフォーマンスを発揮できる。

 それがチーム全体の共通認識になっている。

 ノックでみんなの動きを見る限りほとんど緊張していない。

 攻撃は当然先攻を取っている。ただ、ベンチからスタートしたいだけだ。その方が緊張の中、守備位置で一人から試合が始まるよりずっといい。それがコミュニケーションに共感を求める女の子たちなのだ。

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