第7話 今度は、木庭さんがクイズの書かれた紙を

 今度は、木庭さんがクイズの書かれた紙をみんなに渡す。

 クイズはすべてルールに関することだった。

「はい、終わり。答えを言うから、隣どうしで採点してね。一番は〇、二番は✕・・・」

 みんなクイズの採点を始めている。

「採点結果は、一〇点の人、手を上げて、九点の人…… 」

 結果最下位は、川口だった。

(おーい、ピッチャー候補は一番ルールを知っていないとだめなんだぞ)

「罰ゲーム、罰ゲーム、罰ゲーム」みんなが囃子立てる。

 結局、川口は、一分間逆立ちをすることで許して貰っていた。

 もちろん、スカートではなく、ジャージ姿だったが。しかし、スカートに履き替えてと主張するものが俺以外にも居た。

 それでも、逆立ちを微動だにせず一分間とは。やはり、体幹は相当鍛えられている。 

 木庭さんがみんなに提案する。

「そろそろ、他のみんなに迷惑になるからお開きにしようか?」

「せっかく、盛り上がっていたのに」

「残念です」

「続きは私の部屋でしょうよ」

 みんな、もう少しはしゃぎたかったみたいだが時間が来れば仕方ない。寮生活は他人に迷惑を掛けないが基本だ。

「あっ、忘れていた。みんなの生理は月のいつ頃になるか教えて」

 確かにこれは忘れていた。かなりのハンデになりそうだ。大会期間中だけでも、まさか薬で止めるわけにもいかないかと考えていると、

「月の初めの人は、月末あたりに持ってくるように調整するのよ。あなたたちぐらいになればできるでしょ」

「木庭さん、せめて、大会期間中は避けるべきでしょう」

 俺は口を挟むべきではないと思いながら、思わず言ってしまった。

「監督、何を言っているんですか。生理期間中は、主に筋力が一.五倍に跳ね上がり、気持ちも落ち着いて集中力が増すんですよ。世界の常識じゃないですか!

 しかも、筋肉ムキムキにならず、気になる体重増加も無し。私もオリンピックの決勝に合わせて調整してたんだから」

「はあー? なんで? 」 

 とんでもない常識があったものだ。女性の筋力量は平均男性の六〇%、一.五倍なら九〇%になる。女性の特有の能力がこの世界では底上げされているから……。

 俺は口角を上げる。(いける! やれる! 勝てる!)

「なんでといわれても、月の力のお導き?」

 木庭さんナイスな回答ありがとうございます。


 ◇◇◇


 入学式が始まるまで、練習は午前八時から始まって午後六時に終わる。

 柔軟、ランニング、キャッチボール、守備練習、バッティング練習、走塁練習、クールダウンが、主な練習メニューだ。そして夜は食事の時間を使ってミーティングだ。

 野球部の予算がどのくらいあるのか知らないが、この間、ピッチングマシンと初動負荷トレーニングマシンが購入された。それに学生寮の一室の一面が鏡張りのレッスンルームに改築された。

 木庭さんの話では、この学園の理事長は木庭さんの叔母に当たり野球大好きで野球部に大変理解があること、木庭さん自身の金メダル効果で学園の運営がうまくいっていること、木庭さん自身のお金もだいぶつぎ込まれているとのことだった。

 確かに、スポーツ関連のCMで木庭さんを見かけることがとても多い。まったく羨ましいかぎりだ。

 柔軟は、バレエや体操の柔軟を取り入れ、体幹強化のメニューも追加する。

 キャッチボールも、走りながらパスしたり、二つのボールを使ってお互いに投げて取る練習をしたり、利き腕と逆の腕でキャッチボールしたりとバリエーションを増やしている。

 守備練習もシートノックを取り入れている。部員数が少ないので一人に充てる時間はたっぷりある。

 守備位置や打順、暫定だが、オーダーを作ってみた。


 ピッチャー   大野光希 右投右打 九番  バレエ  

         川口雪乃 左投左打 一〇番 体操   

 キャッチャー  西山汐里 右投右打 八番  野球   

 ファースト   黒田葉月 左投左打 七番  剣道   

 セカンド    正田桃  右投右打 六番  野球   

         菊池桜  右投右打 一一番 空手   

 ショート    高橋美咲 右投右打 二番  野球   

 サード     衣笠梨沙 右投右打 五番  野球   

 レフト     前田京  左投左打 三番  野球   

 センター    山本麗奈 右投右打 四番  野球   

 ライト     緒方陽菜 右投左打 一番  陸上   

 

「みんな、自分が取れる打球だけ追いかければいい。アウトにできる打球だけ確実に取るんだ。抜ける打球は無理をせず、次のプレーを考えるんだ」

 まったく取れそうもない打球に飛びつくなんてナンセンスだ。野球はアウトを取るスポーツだ。次のアウトを取ることを優先してプレーするのが基本だと考えている。

 バッティングも非力さを考慮して構えだけ変えている。バットを担ぐようにして、トップに入る動作で力が無駄に入らないようにするためだ。初動を開始する前段階でいかに脱力できているかが、初動をスムーズかつ最大限の力を発揮するために必要だからだ。

 グリップをボールにぶつけるような綱引きの初動から、脇が締まり、体重移動がスムーズにでき、右側に壁を作り、最後にヘッドが出てくるスイングが理想だ。

 それに伴い、ヘッドスピードも大分上がってきている。

 鋭い打球が右に左にだいぶ飛ぶようになってきた。

「よし、みんな体の動かし方が理想に近づいているぞ。さすがアスリート、パーフェクトボディコントロールは完璧だ」 

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