第4話 俺は天翔女子学園に戻ると

 俺は天翔女子学園に戻ると、練習を解散して、木庭さんに案内され職員用の宿舎に向かう。

 この学園は、スポーツ推薦の場合は、全国から生徒が集まるため寄宿舎があり、それに合わせて、部活動の顧問も宿舎が用意されているのだ。いわゆる、寝る間を惜しんで練習しろということだ。

 新学期開始の四月一日まで一週間、生徒たちの練習に付き合いながら、この地区のレベルを知るために地区予選観戦に足を運ぶ。

 男性の実力は、前にいた世界と同程度。それから情報収集によるデータ野球は、まだまだ個々の力に頼りきっている感じだ。

 それから、野球部の女子生徒たちともだんだんに打ち解けていき、冗談を言える間柄になっていった。


 そして、四月一日を迎える。晴れて、正式な練習ができる。それまでは中学生、一応名目上は自主練ということで、練習に参加しているのだ。

 そして正式な部活動入部の日、木庭さんが、五人の生徒を連れてやってきた。

「この子たちは、私が色々なスポーツを見る中で野球に向いていると思って声を掛けてきた子たちなの。私の薦めで、みんなこの天翔女子学園を受けてくれて、野球部に入ってくれたの」

(そりゃ、オリンピックの金メダリストに声かけられて、断われるやつは、そうはいないわ)

 それにしても、俺の前に並んでいる一一人は、みんな美少女ばかりでクラスの頂点に立つだろう美貌の持ち主ばかりだ。こんな子たちが野球をするのか? 

 いや違う。この世界特有の何かが働いているんだ。なんだったけ、女性の容姿を決定づける要因って? まあ、おいおい思い出すだろう。まずはこういう時は自己紹介だよな。

「俺は、このチームの監督の古場哲也だ。じゃあ、みんな自己紹介をしてもらおうか」

 元気よくスポーツ推薦組が挨拶をする。

「こんにちは、高橋美咲(たかはしみさき)です。中学校では、ショートをやっていました。みんなからはミサって呼ばれています」

「私は、山本麗奈(やまもとれな)です。中学校では、センターをやっていました。レナと呼んでください」

「衣笠梨沙(きぬがさりさ)です。よろしく。あ、希望するポジションはサードです」

「前田京(まえだみさと)、野球は実力だと思います」

「うちは正田桃(しょうだもも)、セカンドやっててん。ももちゃんと呼んでや」

「私は西山汐里(にしやましおり)、キャチャーをやっていました。肩には自信があります」

 今度は、木庭さんスカウト組だ。

「はじめまして、緒方陽菜(おがたひな)です。野球は初めてです。中学は陸上をやっていました」

「菊池桜(きくちさくら)です。少年野球をやっていました。中学時代は空手です」

「黒田葉月(くろだはづき)です。剣道一筋でやってきました」

「大野光希(おおのこうき)です。私はバレエをやっていました」

「川口雪乃(かわぐちゆきの)です。私は新体操です。野球は見るぐらいです」

「全員自己紹介が終わったな。ポジションは、今後適正を見て、決めていくとして、まずはみんなの身体的特徴を把握したい」

「えー、監督のエッチ」高橋は大体一番に口を開くな。

「上から、八二、…… 」

「ちょっと待て、緒方。高橋は冗談を言ったんだ。真に受けるな」

 今日から参加組は、まだまだ推薦組の冗談にはついていけていない。

「まずは、指先を揃えて、手を前に出してくれ」

 俺は個人のプロフィールがかかれた紙にそれぞれメモをしていく。

「監督、うちらマニュキュアとか、ネイルとかしてるのおらへんで」

 大阪弁が混じるのは正田か。慣れている分、発言があるな。

「そんなことはチェックしてないよ。人差し指と薬指の長さを比べているだけ。これで、あることがわかるんだ」

「なにが分かるんですか」西山か。好奇心は人一倍だな。

「俺は、野球で一番必要な能力は、空間認知能力とパーフェクトボディコントロール力、すなわち、イメージ通りに自分の体を動かす力だと思っているんだ。でも、女性は空間認知能力は男性に比べて劣っていることが多い。一般的に、女性は人差し指と薬指が同じ長さなんだが、薬指の方が長い人は、空間認知能力も高いという統計が出ているんだ。この統計を信じるなら、君たちは全員合格だ」

「「「「やった!」」」」

 そこで、さっき引っ掛かっていた疑問が氷解した。もともと、女性のアスリートは、男性特有の性格や特徴を持っているものだが、それは男性ホルモンが多いからなんだ。だから元の世界の女性アスリートの容姿がゴニョゴニョと言ってわけではない。

 生物学的には女性の特徴が強化されているということは、女性ホルモンが多く分泌されているに違いない。でも、運動神経とかは男性ホルモンが多い方が有利だからこの子たちは当然男性ホルモンが多く分泌される。それでバランスを取ろうとして、男性ホルモンが多く分泌される個体は、他の個体よりもさらに女性ホルモンが多く分泌されるから容姿が可愛らしいのだなとアタリがついた。

「次に体操をしてもらう。俺の動きをまねしてやりやすい方を申告してくれ」

 手を上に上げたり、降ろしたり、広げて回したり、下げて回したりしてもらう。

 それを見た俺は、体の使い方の分類は俺の世界と同じだと気が付いた。

「これで何が分かるんですか」

 おっ、新体操の川口か。何か思い当たることがあったか。

「人は体の理想的な使い方がそれぞれ違うんだ。重心の掛け方、体の力の出し方が平行に収縮、伸延するか、対角に収縮、伸延するかの仕方で大体4タイプに分かれるかな。そのタイプを知るための判定方法だな。これを参考に指導するつもりだ。みんなそれぞれ打ち方が違って当然で、みんな一緒の方がおかしいだろう」

 川口が頷いてくれる。

 みんなの特徴は大体わかった。あとの調査はもう少しお互いの距離を詰めてからだ。

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