第3話 新学年が始まる三月末は
新学年が始まる三月末は、春の大会の地区予選が始まる。ロードされた記憶では、この県のシード校常連の対戦がある。
この世界の高校野球のレベルをこの目で見たいし、女神がくれたスキルについても確認しておきたい。
学園の近くの市営球場に出向き、バックネット裏に全員で陣取る。中学校時代のそれぞれのチームのグラコンを着た女子生徒の集団はかなり目立っていて、各校のスコアラーや、高校野球通の定年を迎えたおっさんたちに好奇の目で見られている。
そんな視線に構わず、どのあたりで観戦しようか周りを見回すと、ブランド品のグラコンとジャージ、スポーツサングラスをかけた若い女性と目があった。
その女性は、ちょいちょいと手招きをして、俺を呼んでいる。
こんな美人に知り合いが居たかなと考えて思い当たった。
「髪の毛の色が違いますが、野球の女神さんですよね?」
俺は、女性の隣に座り、小声で話しかけた。
「当たり。この試合は見逃せなくってわざわざ下界に降りてきたの」
「この試合にそれほどの価値が? 」
「そう、あの無名校のピッチャー、実はあなたと同じ転生者なの。一五〇キロのボールと鋭い変化球、針の穴を通すコントロールを望まれて付与しちゃたのよね」
「はあー、高校にメジャーリーガーを転生させてどうするんだ!」
思わず女神に怒声を浴びせる。俺のやり直し人生は前途多難だ。
「ところで試合の流れや、勝敗を分けるワンプレーってどうすればわかるんですか?」
隣の野球の女神様に俺は尋ねた。
「ステータスオープンって小声で囁けばいいのよ。閉じるときは、シャットダウン。ステータスが見られるのは、試合開始一〇分前から試合終了までよ」
「なんだ、ゲームみたいだな。「ステータスオープン」」
俺の前に三次元のモニターが写し出される。
両校の流れがゲージで表示され、各選手の状態もゲージで表示されている。項目は、実力、メンタル、体調、運、身体的特徴、その他となっている。
「さらに、細かく見たいときには、その項目に触れればいいのよ。それから、そのモニターはあなたにしか見えないから周りを気にしなくて大丈夫よ」
試しに体調をクリックすると、この選手は下痢気味なのが分かった。野球にかかわるデータがないのか? 打率とか長打率、防御率なども出来れば知りたい。
実力をクリックすると打率、長打率、防御率、それから好きなコースと苦手なコースが書かれている。あと、***となっている所が在る。これはシークレットってやつか?
ステータス上は、今の流れはベスト8常連校が有利か、最初から相手を飲んでかかっているんだろうな。そこそこ無名校にゲージが振れているのはなんでだろ?
ゲージにタッチすると、例のピッチャーの状態がこのゲージの振れの原因ようだ。さらに、そこをタッチすると、実力、メンタル、体調が表示され、すべてがトリプルAだ。トリプルAが最高の表示ということだろう。さて、実際の実力はどんなもんか? 興味は尽きない。
常連校が先攻だ。まあ、格下相手には常套手段だな。相手が落ち着かないうちに先制攻撃で息の根を止める。後はそのまま試合を優位に進めるだけだ。案の定、ステータス画面では無名校は緊張度がマックスだ。
試合前のノックも終わり、試合開始のサイレンが鳴る。
無名校のピッチャーが振りかぶり第一球を打者に投じた。その瞬間、ステータス画面の真ん中に赤い警告灯が回転し、警告音が響き渡る。
「これが、試合の勝敗を分けるワンプレーか?」
投じられたボールは、唸りを上げバックネットに一直線に向かってきて、野球の女神様の顔近くのバックネットに突き刺さると、そのまま唸りを継続し跳ね返らず、ネットを伝わって上に二メートルほど駆け上がり、グランドに転がり落ちていった。
大暴投!
「一五〇キロ以上出ているぞ。しかも、凄いバックスピンがかかっている!」
「あの子、どうやら私が女神だと気が付いたみたい。こちらを見て笑っているもの」
俺がそちらを見ると、口角を上げ自信に満ちた表情でこちらを見ている。
ステータス画面を見ると、流れのゲージが大きく無名校に振れ、常連校は完全に戦意を喪失している。
「Reメンタルしてみたいんだけど? 」女神様に聞いてみる。
「左下に、Reメンタルボタンがあるでしょ。そこを押すの。一試合一回だけしか使えないからね。それから、本当は自分たちの試合にしか使えないから、今回は使い方を知ってもらうためのサービスよ」
俺はリセットボタンを押す。すると試合の流れのゲージが五分になる。
なるほど、これはどんなタイムよりは効果的だ。
二球目、再び、ステータス画面から警告灯が回転している。Reメンタルしても、どこかで再び勝敗を分けるワンプレーが発生するのか。まあ当たり前だな…
バッターはさすが強豪校だ、メンタルを持ち直しファーストストライクから積極的に打ちにいく。
が、ここで急激に、ボールがスライドしてキャッチャーのミットに収まった。
「高速スライダー。しかも、手元で急激に曲がる鋭いキレだ。決まったな」
俺はひとりごとを呟いた。
たった二球で試合が決まった。もっとも、実際は初球の大暴投の一球なのだけど……。
強豪校は完全に心が折られてしまっている。
試合の流れが見えるゲージは完全に無名校に傾き、そのまま試合終了を迎えた。
試合結果は三対〇。強豪校は点が取れない焦りから四球とエラーで自滅した格好だ。
転生者のチームのバッティングはそれほどでもないのが救いだ。
俺は、隣の女神に礼をして立ち上がる。
「頑張って甲子園に行ってね~」
俺の後ろ姿に声を掛けてきた。それには答えず後ろ手に手を振った。
「さあ、もう学園に帰ろうか。帰ったら解散な」
「ねえねえ、さっきの女の人誰? 」
木庭さんが聞いてくるので、
「野球で知り合った人。俺に希望と絶望をくれた人かな」
、春の大会の地区予選が始まる。ロードされた記憶では、この県のシード校常連の対戦がある。
この世界の高校野球のレベルをこの目で見たいし、女神がくれたスキルについても確認しておきたい。
学園の近くの市営球場に出向き、バックネット裏に全員で陣取る。中学校時代のそれぞれのチームのグラコンを着た女子生徒の集団はかなり目立っていて、各校のスコアラーや、高校野球通の定年を迎えたおっさんたちに好奇の目で見られている。
そんな視線に構わず、どのあたりで観戦しようか周りを見回すと、ブランド品のグラコンとジャージ、スポーツサングラスをかけた若い女性と目があった。
その女性は、ちょいちょいと手招きをして、俺を呼んでいる。
こんな美人に知り合いが居たかなと考えて思い当たった。
「髪の毛の色が違いますが、野球の女神さんですよね?」
俺は、女性の隣に座り、小声で話しかけた。
「当たり。この試合は見逃せなくってわざわざ下界に降りてきたの」
「この試合にそれほどの価値が? 」
「そう、あの無名校のピッチャー、実はあなたと同じ転生者なの。一五〇キロのボールと鋭い変化球、針の穴を通すコントロールを望まれて付与しちゃたのよね」
「はあー、高校にメジャーリーガーを転生させてどうするんだ!」
思わず女神に怒声を浴びせる。俺のやり直し人生は前途多難だ。
「ところで試合の流れや、勝敗を分けるワンプレーってどうすればわかるんですか?」
隣の野球の女神様に俺は尋ねた。
「ステータスオープンって小声で囁けばいいのよ。閉じるときは、シャットダウン。ステータスが見られるのは、試合開始一〇分前から試合終了までよ」
「なんだ、ゲームみたいだな。「ステータスオープン」」
俺の前に三次元のモニターが写し出される。
両校の流れがゲージで表示され、各選手の状態もゲージで表示されている。項目は、実力、メンタル、体調、運、身体的特徴、その他となっている。
「さらに、細かく見たいときには、その項目に触れればいいのよ。それから、そのモニターはあなたにしか見えないから周りを気にしなくて大丈夫よ」
試しに体調をクリックすると、この選手は下痢気味なのが分かった。野球にかかわるデータがないのか? 打率とか長打率、防御率なども出来れば知りたい。
実力をクリックすると打率、長打率、防御率、それから好きなコースと苦手なコースが書かれている。あと、***となっている所が在る。これはシークレットってやつか?
ステータス上は、今の流れはベスト8常連校が有利か、最初から相手を飲んでかかっているんだろうな。そこそこ無名校にゲージが振れているのはなんでだろ?
ゲージにタッチすると、例のピッチャーの状態がこのゲージの振れの原因ようだ。さらに、そこをタッチすると、実力、メンタル、体調が表示され、すべてがトリプルAだ。トリプルAが最高の表示ということだろう。さて、実際の実力はどんなもんか? 興味は尽きない。
常連校が先攻だ。まあ、格下相手には常套手段だな。相手が落ち着かないうちに先制攻撃で息の根を止める。後はそのまま試合を優位に進めるだけだ。案の定、ステータス画面では無名校は緊張度がマックスだ。
試合前のノックも終わり、試合開始のサイレンが鳴る。
無名校のピッチャーが振りかぶり第一球を打者に投じた。その瞬間、ステータス画面の真ん中に赤い警告灯が回転し、警告音が響き渡る。
「これが、試合の勝敗を分けるワンプレーか?」
投じられたボールは、唸りを上げバックネットに一直線に向かってきて、野球の女神様の顔近くのバックネットに突き刺さると、そのまま唸りを継続し跳ね返らず、ネットを伝わって上に二メートルほど駆け上がり、グランドに転がり落ちていった。
大暴投!
「一五〇キロ以上出ているぞ。しかも、凄いバックスピンがかかっている!」
「あの子、どうやら私が女神だと気が付いたみたい。こちらを見て笑っているもの」
俺がそちらを見ると、口角を上げ自信に満ちた表情でこちらを見ている。
ステータス画面を見ると、流れのゲージが大きく無名校に振れ、常連校は完全に戦意を喪失している。
「Reメンタルしてみたいんだけど? 」女神様に聞いてみる。
「左下に、Reメンタルボタンがあるでしょ。そこを押すの。一試合一回だけしか使えないからね。それから、本当は自分たちの試合にしか使えないから、今回は使い方を知ってもらうためのサービスよ」
俺はリセットボタンを押す。すると試合の流れのゲージが五分になる。
なるほど、これはどんなタイムよりは効果的だ。
二球目、再び、ステータス画面から警告灯が回転している。Reメンタルしても、どこかで再び勝敗を分けるワンプレーが発生するのか。まあ当たり前だな…
バッターはさすが強豪校だ、メンタルを持ち直しファーストストライクから積極的に打ちにいく。
が、ここで急激に、ボールがスライドしてキャッチャーのミットに収まった。
「高速スライダー。しかも、手元で急激に曲がる鋭いキレだ。決まったな」
俺はひとりごとを呟いた。
たった二球で試合が決まった。もっとも、実際は初球の大暴投の一球なのだけど……。
強豪校は完全に心が折られてしまっている。
試合の流れが見えるゲージは完全に無名校に傾き、そのまま試合終了を迎えた。
試合結果は三対〇。強豪校は点が取れない焦りから四球とエラーで自滅した格好だ。
転生者のチームのバッティングはそれほどでもないのが救いだ。
俺は、隣の女神に礼をして立ち上がる。
「頑張って甲子園に行ってね~」
俺の後ろ姿に声を掛けてきた。それには答えず後ろ手に手を振った。
「さあ、もう学園に帰ろうか。帰ったら解散な」
「ねえねえ、さっきの女の人誰? 」
木庭さんが聞いてくるので、
「野球で知り合った人。俺に希望と絶望をくれた人かな」
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