9.ディアナ博士からの手紙
「デイアナ博士の
俺の言葉にアーシアさんが「はい」とうなずいてみせた。
見上げてみると、天井近くの採光窓が開け放たれていた。使い魔はそこからアーシアさんの手に降り立ったようだ。
アーシアさんの右手に止まった白い鳩……のような生き物がクックルー! と鳴き声を上げる。
いや、これ完全に鳩の鳴き声だわ。もう面倒だから鳩でいいよ。
「お母様からの手紙を運んできたようですね」
アーシアさんはそう言うと、鳩の背中の小さな木箱を開けてみせた。
箱の中には折り畳まれた紙が一枚入っていた。
アーシアさんは鳩を手のひらから肩に移すと折り畳まれた紙を両手で丁寧に広げた。紙の大きさは、俺の世界の漫画雑誌と同じくらいのサイズだった。多分、B5サイズってやつ?
アーシアさんの肩に止まった鳩の
まるで、早く読めと急かしてるようだった。
「これは……」
手紙を読むアーシアさんの表情が曇る。
「どうかしたんですか?」
「……タカマル様も読んでみてください」
そう言うと、アーシアさんは俺に手紙を寄越した。
☆ ☆ ☆ ☆
「いかんともしがたいな……」
ガリオンさんはそう言うとお茶の入ったカップに口を付けた。
「ええ。お母様も困った方ですね……」
空のカップにお茶を注ぎながらアーシアさんが言う。
荒らされた神殿と遺体安置所の片付けを手伝ったお礼に夕食のサンドイッチを準備してくれたシスター達が、神殿の食堂の隅からこちらの様子をチラチラと伺っている。
うーん、こりゃ心配されてるな。
それも無理はない。俺達三人はさっきからずっとサンドイッチをパクつきながら難しい表情を浮かべているのだから。
先程、
そこには、今朝アスタルクで起きた不可思議な事件と、ディアナ博士が蒐集している「怪奇事件ファイル」に関する記述があった。
ディアナ博士はかく語りき。
☆ ☆ ☆ ☆
『みんな〜元気にしてた〜? ディアナ博士よぉ〜。わたしは
☆ ☆ ☆ ☆
……。
……。
……。
内容の深刻さに対して文章のノリが軽過ぎるんだよっ!!!
温度差で頭がパーンするかと思ったわ。あと、人のことを勝手に
マジで何を考えてるんだ、あの異世界マッドサイエンティスト人妻は。
こんな怪文書を読まされたら、そりゃ、変な呻き声も出るわい。
「タカマル様、申し訳ありません。お母様は、なんというか、こう、なんなんでしょうかね、本当に……」
「あー、別にアーシアさんが謝ることじゃないっすよ。気にしないでください。それにしても、なんつーか、こう、独特のノリっすねディアナ博士って……」
俺は自分でも引き攣ってるのが分かる微妙な笑顔を作りながら、最大限オブラートに包んだ表現でディアナ博士の人となりを評してみせた。
「いや、私からも謝らせて欲しい。タカマル殿が困惑するのも当然だ。ディアナのノリ……いや、態度には前々から思うところがなかったわけではなかったのだよ……」
ガリオンさんは椅子から立ち上がると俺に向かって頭を下げた。
「いやいやいやいや!! そんなガリオンさんまで深刻そうな顔しないでくださいよ!! てか、頭を上げてください!! マジで気にしてないんで!! ちょっと、アレなノリかなー、と思ったくらいなんで!!」
「……やっぱり、アレなノリだと思いますか?」
「……やはり、アレなノリだと思うかね?」
俺の言葉にガリオンさんとアーシアさんが親子で仲良く項垂れる。
「……お父様、フィオーラの心配していたことは正しかったみたいですね」
「……アーシア、フィオーラが心配していたことは正しかったようだな」
「二人ともそんなに落ち込まないでくださいよ! そりゃ、ちょっとノリはアレかもしれないけど、重大な事件はこうやって迅速に報告してくれてるし、ちゃんと仕事のできる人なのは俺にも分かるんで!!」
俺の言葉にガリオンさんとアーシアさんが顔を上げる。
「そうですよね! お母様は神星術修道会の会長で優秀なお医者様かつ高名な研究者、お手紙の文面が多少個性的でも仕事はしっかりとできる立派な方なんですよ!」
「そうだな! 手紙の文面と普段の発言と素行に多少問題があっても、仕事はしっかりこなす私の自慢の
ガリオンさんとアーシアさんが満面の笑顔で言った。
なんか、もう、勝手にやってくれ。俺は段々疲れてきたよ……。
今ならフィオーラの気持ちがよーく分かる。エンシェント家の人達はいい人なことに間違いないけど、メチャクチャめんどくせぇ!!!
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