8.怪人・青フード
街灯の下に青いフードを深々とかぶった怪人が佇んでいる。
俺の指差すほうを見たアーシアさんの息を飲む音が聞こえた。
「二人は下がって」
普段より低い声でガリオンさんが言う。
ガリオンさんは腰に吊り下げた剣の柄に手を添えていた。
両足を広げ、腰を深く落としている。いつでも剣を抜ける体勢だ。
その独特の体勢に俺は見憶えがあった。
「……ガリオンさんのスキルもランディさんと同じようなヤツなんですか?」
俺の質問にアーシアさんが少し考えるような表情になる。
「……以前にも説明しましたが、ランディさんのスキル『割断』は“斬る”ことに特化したスキルです。それと洗礼術式を組み込んだ特注品の剣を組み合わせることで
言葉で説明するよりも実際に見たほうが早いと判断したのだろう。アーシアさんが俺に注意を促した。
「チッ……!!」
舌打ちのような独自の掛け声と同時にガリオンさんが剣を抜く。
青いフードとの距離はかなりあった。余裕で五十メートル以上は離れている。
どう考えても剣の届く距離ではない。
飛び道具でも撃つのだろうか?
俺がそう考えたのと同時。
ガリオンさんが俺の視界から消えた。
そして、次の瞬間、青フードの目の前に出現した。
「
「お父様のスキル——『移せ身』です。剣を構え、視線を向けた先に自分の体を転移させるスキルになります」
驚く俺のためにアーシアさんが丁寧に解説してくれた。
なるほど、イーサンの『縮地』と同系列の移動用スキルというわけね。
しっかし、瞬 間 移
瞬間移動したガリオンさんが青フードの鼻先に鞘から抜いた剣を突きつける。
さすがにノータイムでバッサリやるわけにはいかないのだろう。
剣を突きつけられた青フードは身動きひとつしない。というか、できないのだろう。下手に動けば、多分、斬られる。そう判断したのではないだろうか。
「アーシアさん、俺達も……」
「いいえ。ここはお父様にお任せしましょう」
「分かりました……」
ひとまず、アーシアさんの言う通りにしておこう。
何かあったら、
ガリオンさんと青フードは向かい合ったまま微動だにしない。
先に動いたほうが負けとでも言わんばかりだ。
アーシアさんと俺は固唾を飲んでガリオンさんを見守る。
もちろん、
「カカカカカカカカ……!」
先に均衡を破ったのは青フードのほうだった。
青フードは気味の悪い笑い声を上げると、そのまま体を後に反らせて大きくジャンプした。
それは、たいそう見事な後方宙返りだった。
青フードは体操選手顔負けの綺麗なバク宙を連続で決めると、唖然とする俺達三人を嘲笑うかのように夜の闇へ消えた。
青フードが消えた方角にはベレクトの神星教団支部があった。
「奴は我々を誘っているのか……?」
剣を鞘に納めながら困惑した表情でガリオンさんが言う。
「その可能性はありますね……」
アーシアさんが青フードの消えたほうを見つめながら答えた。
青フードは邪教徒との関係が疑われている。
そして、神星教団と邪教徒は敵対関係にある。
青フードが教団支部の神殿に何かちょっかいを出す危険性は充分に考えられた。
「ガリオンさん、アーシアさん。教団支部が危ないかもしれません。俺達も急ぎましょ!」
俺の言葉にアーシアさんとガリオンさんが頷いた。
☆ ☆ ☆ ☆
ベレクトの教団支部は上へ下への大騒ぎだった。
突如現れた青フードの怪人は神殿の横に併設された死体安置場を襲撃。
そして、解剖が終わり俺の霊視待ちだったロブ・イモータンの遺体を持ち去った。
青フードはイモータンの遺体にしか興味がなかったのか、神殿と安置場にいた教団関係者達にはほとんど危害を加えなかったようだ。
青フードを止めようとした人が何人か怪我をしたけど、いずれも軽症。不幸中の幸ってやつだな。
ただ、撹乱と追跡の妨害を兼ねてか、神殿と安置場をひっちゃかめっちゃかにしていった。
家財具や本、書類、棺がら転がり出した遺体などがあたりの散乱し、まるで台風が通り過ぎた後のような惨状だった。
一体、何の目的でイモータンの死体を持ち去ったのだろう。
イモータンのアトリエの周辺で青フードが目撃されたことと何か関係があるのだろうか。
俺は青フードの襲撃でメチャクチャにされた死体安置場の片付けを手伝いながらそんなことを考える。
う、仏様と目が合った……。
映画で見慣れてるつもりでも本物の死体の迫力はやっぱり違う。
いつぞやのダンジョンでゾンビの群れに襲われたときも思ったけど、知ってるとことと経験したことは全くの別物なんだよな。
正直、だいぶ及び腰になってるけど、アーシアさんに情けない姿を見せたくなかったので、何も言わず、安置所担当の教団員と協力して遺体を棺に戻していく。
「あら?」
床の掃き掃除をしていたアーシアさんが声を上げた。
「どうかしたんですか?」
「お母様の
そう言うアーシアさんの手のひらに白い鳩——に見える鳥のような生き物が止まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます