3.診察結果
「ひ、酷い目に遭った……」
人体解剖スレスレの猟奇的な診察(?)から解放された俺は、研究室の隅に置かれたソファーでグッタリしていた。……ちなみに、もう服は着てるからな? 俺のパンチを期待していた人は残念でした。って、そんなやつはいないか。
「お疲れ様です、タカマル様」
備え付けの小さなキッチンから出てきたアーシアさんが、サイドテーブルにティーセットを置きながら労りの言葉をかけてくれた。
「……災難だったわね。悲鳴が外まで聞こえてきたわよ」
隣に座ったフィオーラが心の底から同情したような顔で言う。
「……お前がディアナ博士を警戒する理由がよ〜く分かったよ」
「そう……。分かってくれたならいいの……」
フィオーラが人生に疲れ切ったおっさんみたいな顔で言う。母親が自由過ぎるせいでいろいろ苦労してるんだな……。俺のかーちゃんもどちらかといえば自由なパーソンだけど、さすがに初対面の人間にノータイムで致命傷を叩き込んだりしない。
「タカマル様もフィオーラも、どうしてそんな暗い顔をしているんですか?」
アーシアさんが小首を傾げながら訊いてくる。
ほ、本当に分かってないのか、この人……?
「タカマル様は、さっきまで、あんなに楽しそうな声を上げていらしたのに……」
俺は確認のため、隣のフィオーラに視線を送る。悲しげな表情で首を横に振るフィオーラを見て、俺は全てを悟った。
……かーちゃんもねーちゃんもド天然でマジ苦労してんだな。よし、後でアイスをおごってやろう。チョコミントのやつだ。
「みんな〜、いいデータが取れたわよ〜」
タイプライターの怪物みたいなクソデカ謎機械——テラリエルのコンピューターのようだった——の前でゴソゴソやっていたディアナ博士が、満面の笑顔を見せながら俺達の方にやってきた。両手に紙の束を持っている。
「お母様、お疲れ様です。お茶をどうぞ」
「ありがとう。あら〜、いい香りね〜。心が安らぐわ〜」
「チョコミントフレーバーのお茶です。最近、街で人気なんですよ。沢山買ったので、お土産に少し持ってきました」
「ふ〜ん、今はこうゆうのが流行ってるんだ〜。研究室に籠ってばかりいると、トレンドに置いていかれて困っちゃうわ〜」
ディアナ博士はそう言うとケラケラ笑い声を上げた。
アーシアさんもそれにつられてクスクス笑う。
「……それで、タカマルの診察結果はどうだったの?」
フィオーラが訊く。母親と姉のマイペースぶりに痺れを切らしたようだ。
「もう、フィオーラってばそんな急かさないでよ〜。久しぶりに
「今日は教団のお勤めできてるの! そうゆうのは!! 後にして!!」
「や〜ん。フィオーラこわーい〜。でも、怒った顔も可愛い〜」
ディアナ博士が体をクネクネさせながら言う。おい、ヤベェぞ。フィオーラの顔面が青筋だらけになってる……!
「お母様! 真面目にやって!! あと、姉さんも一緒になって笑わない!!」
「お、落ち着けよ、フィオーラ……」
「失礼ね! わたしは冷静よ! お母様と姉さんのノリが……なんというか、こう、いろいろとアレなだけでっ!!」
「フィオーラってば心配性ねぇ〜。お母さんはちゃんと自分のお仕事をする大人です! タカマル君の診察結果ならここにあるわよ〜」
「だったら、タカマルにしっかり報告してあげて」
「は〜い。任せて〜」
本当にこの人に任せて大丈夫なんだろうか? また、パンイチでベッドに拘束された挙句、変な武器で人体解剖されたりしないだろうか。段々、不安になったきたぞ。
「タカマル様、そんなに緊張しないで下さい。お母様は立派なお医者様です。なんの心配もありませんよ」
立派なお医者様とは(白目)。いや、アーシアさんは俺を安心させるために言ってるんだ。もう、細かいことを気にするのはやめよう……。ぶっちゃけ、ツッコミを入れるのにも疲れてきたし……。
「は〜い、みんな注目〜。それじゃ、タカマル君の診察結果を報告しま〜す」
ディアナ博士が声高らかに宣言する。
「まず、タカマル君の健康状態からですが、これは特に問題ありませんでした〜。今後もこの状態をしっかりキープしてね〜。栄養管理はアーシアに任せているから大丈夫だと思うけど〜」
「はい。私がしっかり、タカマル様の健康をお守りします」
アーシアさんが笑顔で請け負ってくれた。実際、彼女の作る料理はどれもメチャクチャ美味しい。俺としても望むところだった。
「これが診察結果よ。渡しておくわね〜」
俺はディアナ博士からプリントアウトされた診察結果を受け取る。
おっ、少し背が伸びてる! 春に学校で身体測定をしたときは172センチだった身長が、174センチになっていた。それにあわせて、体重も60キロから63キロに増えている。……まぁ、どっちも誤差の範囲内といえばそうかもしれないけど。
「……なんか嬉しそうね」
フィオーラが診察結果を覗き込んでくる。
「身長が少し伸びんたんだよ」
「へぇ……」
「あと、視力がだいぶ良くなってるな……」
「おそらく、
アーシアさんが説明してくれた。そういえば、そんな話もあったな。
「
「確かにそうよね。やっぱり、
フィオーラが感心したような調子で言う。
「三人とも、続けるわよ〜?」
「OKっス!」
「大丈夫よ」
「あ、私、お茶のお代わりを持ってきますね」
アーシアさんはそう言うと、研究室のキッチンに向かった。
「それで、タカマル君の確率的ゾンビ状態についてなんだけど、興味深い結果が出たわ〜。もう、私、びっくりしちゃった〜。所持スキルが
ディアナ博士の丸眼鏡が鋭い光を放つ。
「うふふ、最高ね〜。人々から忘れ去られた死の女神の加護を受けた英雄だなんて〜。是非、私の事件ファイルに収めたい案件だわ〜!」
恍惚とした表情で迫ってくる博士に俺は気圧された。
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