第39回殺伐感情戦線 【後悔】 一蓮托生

 彼女と私の間を邪魔する者は全て排除しなければならない。

 彼女に関わろうとする全てのものを破壊し、排除し、抹殺し続けないといけない。


 それがエリカの幸せの為だから。

 外の世界はとても危険だから、彼女は私が守らないといけないから。


「そうだ。閉じ込めてしまえばいいんだ」


 彼女の想い人が、好きな人がいなくなった時。

 彼女が絶望と失望のどん底にいる時、いつも私が支えてあげた。


 彼氏が浮気した時も。

 事故で友人が死んだ時も。

 家族が何者かに襲われた時も。


 彼女のそばにいることができるのは私だけなんだから。

 私しかエリカの傍にいることは出来ない。


 そう。

 これは運命なのだから。


 貴方だけは私が助けてあげる。


 何度死んでも。

 どんなに苦しくても。


「おはよう。エリカ」

「おはよう。アキちゃん」


「もう、元気?」

「うん元気だよ」


 昨日まで泣きじゃくっていたから、目元が真っ赤に腫れている。


「大丈夫? 泣いていたの?」

「うん。友達やお母さんの事を思い出しちゃって」

「そっか。私はずっと傍にいるからね」

「約束だよ。私だけなんでこんな目に遭わないといけないの。なんで私と一緒にいる人たちはみんな死んじゃうの。私、何か悪いことした? 百合菜。百合菜ァ」

「エリカは何も悪くない。悪くないよ。私は絶対にエリカと一緒だよ。絶対にエリカの側を離れないから」


 彼女の記憶も私と彼女だけのもの。

 今の彼女を苦しめているのは、かつて友達であった者。かつて、親であった存在だ。


 彼女の記憶の中にある存在。

 彼らがいる限り、彼女は苦しみ続ける。

 絶望を味わい続けることになる。


 今の彼女は絶望に魂を支配されている状態にある。

 だから、私は彼女を解放してあげないといけない。


 エリカが苦しんでいる姿を見たくないから。

 そんな悲しくて苦しい顔を私は見たくない。


 彼女の中から私以外の存在を消せば良い。


 とても簡単なことだった。


 ぽろぽろと涙を零す彼女を強く抱きしめる。


「エリカ。私だけを見て。私が全て受け止めてあげる」

「私……わたしィィィ……あ…………ぁぁぁぁ……………………あああああああぁぁぁぁぁぁぁ」

「全部忘れて良いんだよ。ね。もう、忘れよ。閉じ込めて良いんだよ。辛いことは全部忘れても良いんだよ」


 彼女の思い出の中にいる人は私だけでいい。

 エリカには私だけを見ていて欲しい。


 彼女と関わった人は全員死んでしまう。

 それは彼女の罪と罰だ。


「エリカの罪も罰も全部私が一緒に背負ってあげる。私が一生エリカの側にいるから」


 その日からエリカの記憶からは私だけになった。

 泣くことも無くなって、幸せな日々を送っている。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 その日以降、私とエリカだけの閉じられた世界が構築された。


 彼女の記憶には私しかいない。

 それ以外は封印をしたまま開かない。


 それでいい。


「ねぇ。百合菜。この前、変な人に声をかけられたの」

「へぇ。誰?」

「分かんない。でも、綺麗な人だったよ。桜姫女学院の三年生だって。なまえはええと、萩野さやかって言ってた」


 ああ、あのエリカの所属していた部活の部長の名前だ。

 美人で成績優秀な先輩。

 以前から警戒はしていたけれど、やはりか。


 もう、必要ないとは思ってはいたけれど、やはりエリカのことが好きなようだ。

 私とエリカの邪魔をするものは許さない。

 エリカは私以外必要としなくていい。


 自分の部屋の棚に入れてあったナイフを持ち、萩野先輩の家に向かった。




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