第33回殺伐感情戦線 【祝福】あなたと永遠の花を咲かせよう

 私の庭はとても色鮮やかだ。

 鮮血のような真紅色の花びらが血の海のように乱れ咲いている。


それらは【血晶紅蓮(けっしょうぐれん)】と呼ばれる花だ。

 形は彼岸花によく似ており、鮮血のように鮮やかな赤は、苗床によって変化するらしい。


 庭の隣の部屋は、血晶紅蓮を増殖させるための苗床を養成している。


 部屋には人一人入りそうな培養液が九つ。

 中央にある培養装置には素体を。

 その周囲にある八つの培養装置には、クローン体が入っている。


 素体が入っている培養装置を左手で触れ、中に入っている金糸の髪の少女に語りかける。


「貴方が教えてくれたんだ。冬美。遂に君のお陰で血晶紅蓮の研究が出来る。冬美、貴方は私の希望だったんだよ。ずっと、ずっと、ずっと——」


 でも、それは昔の話。

 ずっと、ずっと昔の話。


 私はあの時から狂ってたんだ。

 10歳のある日、彼女が飼っている小鳥を毎日自慢するものだから、見に行くことにした。


 可愛い鳥だった。

 彼女は自分がどれだけその小鳥が好きなのか、愛しているのか語っていたけれど、私には心底どうでもいい事だった。


 ただ、私のことを見てくれていないということは分かった。


 私はトイレに行くふりをして、洗剤を小さなビニール袋に入れ、冬美が部屋から出ていっている時に無理矢理その小鳥に飲ませた。

 小鳥は苦しんで息を引き取った。


 冬美が部屋に戻って死んだ小鳥を見ると、絶望に溢れた涙で、表情で泣き崩れていた。

 そんな彼女を見て私は不思議と胸が高まっていた。


 この子に大切なものなんていらない。

 私はもっと冬美のその表情を見てみたいと思った。


「ねぇ、最初は動物に寄生する植物の研究だったんだよね。それを国家機密プロジェクトとして、兵器として利用出来るように改良する。それが目標になってしまった。冬美がそのプロジェクトの一員だったときは驚いたよ。本当に、私達運命で繋がっているよね」


 しかし、その計画は凍結してしまった。

 理由は研究者には知らされていない。

 でも、そんなものは私にはどうでもいい。


 彼女の全てを、何もかもを奪えるのなら私はなんだってする。


 彼女の素体はクローンの記憶を記録し、保持し続ける。

 血晶紅蓮の種をクローン体に植え付け、花を咲かせる。

 そうすれば、血晶紅蓮は血液を吸い取り、一週間足らずで鮮やかな赤い花を咲かせる。


 私はその時の苦痛に満ちた表情が好きなのだ。

 もっと、絶望的なあなたの目を私は見たい。


 血晶紅蓮が咲き誇る庭は、貴方の墓地。

 貴方の血で染まった鮮血の花。金色の陽光が射し込む蔓に覆われたガーデンに、貴方を苗床にした花がそこら一面に咲いている。


 彼女は永遠に眠らない。

 永遠に死に、蘇り、その殺戮の記憶を脳内に刻み続ける。

 死の記憶を何万回、何億回も記憶し続ける。


 貴方は死ぬとき、私の顔以外見てはいけない。

 私の全てを奪った貴方だから。

 私も貴方の全てを奪ってあげる。


 心も体も魂も。


 まだだ。

 貴方を世界の脅威としなくては。

 貴方で世界を恐怖に陥れないと。


 素体が入っている培養装置から、彼女の血液が入った試験管を取り出す。

 遺伝子改変した彼女の血液には、血晶紅蓮が埋め込まれている。

 彼女は吸血鬼となり、世界を震撼させるだろう。


 世界が彼女の血で染まり、真っ赤な花を咲かせることになる。


 彼女を世界がどうとらえるのか。

 殺すのか。

 生かすのか。


 生れ出た赤ん坊に罪は無い。

 生れ出る前に善悪を押し付けるのは、その生を拒絶することだ。

 しかし、拒絶すべき生がこの世界に存在するだろうか。

 否、そんなものは存在しない。。


「祝福しよう。これから生まれ出る悪魔よ。天使よ。存分に生を謳歌しろ。世界を渡り、闊歩しろ」


 冬から春が訪れる。

 鮮血の春が。鮮血の桜が咲き乱れる。

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