05 幻獣

「こんにちわぁ」


「あら。聖霊ちゃん。いらっしゃいませ」


「めいなーどへっくす。だいすきっ」


「え?」


「まじか」


「メイナードヘックスいたよ。最初から」


「俺も気付かなかったな」


「きになることがあってね。きたの」


「聖霊ちゃんが気になること?」


「うん。なんかね。ええと、おくすりいちじょうぶんと、おみずいっぱいぶんだけ、そらがね、かたむいたの」


「空が」


「傾いた?」


「うん。なんていっていいかわからないんだけど、こう、なんか、かたむいたの。ほんのちょっとだけ」


「傾き。傾きか」


「アルさん、なにか心当たりでも?」


「いや。そういえば連絡をくれた蛇も、同じようなこと言ってたなと思って。探知がしにくいとかなんとか」


「探知」


「あ、あれかも。ほら。人間って、わずかな空間のずれでも身体が反応してしまうって」


「空が傾いたから、人間の方向感覚が狂って壁にぶつかるようになったってか?」


「うん」


「一さん。それはさすがに飛躍しすぎているのでは」


「いや二。案外ありうるぞ、これは」


「え。ほんとですか一さん」


「二。考えてみろよ。聖霊ちゃんの言うことだから、まず空が傾いたことに間違いはない」


「うん。かたむいてるよ?」


「そして、壁にぶつかる人間が街中に多発している。しかしどれも、些細なぶつかりかたで、病院に運ばれた人間はいない。メイナードヘックス。いるんだよな、そこに」


「います。聖霊ちゃんに抱きつかれています」


「わたしがだきついてます」


「見つかりやすくなったとか、見つかりにくくなったとか、そういう変化はあるか?」


「あ、そういえば最近、見つかりにくくなりました。メイクをしなくても、認識されたりされなかったり。代わりに声は届くようになったんですけど」


「やっぱり。壁と空の傾きは連動してる」


「一さん。どういう論理ですか」


「光の当たり具合だ。空が傾いて、人間の方向感覚が変わった。同時に、光の当たり方も変化したからメイナードヘックスは声が届くのに見つかりにくくなっているし、聖霊ちゃんは光合成のときに空の傾きを感じた」


「筋は通っているな」


「なんで傾いたんだろう、空」


「それはまあ、説明不能だな。天変地異としか言いようがない」


「まあ、なんにせよ、我々の仕事は」


「街に出向いて交通安全を呼び掛けることだな。よし、行くぞ二」


「了解」


「わたしも行きます」


「戌子はもう酒呑んでるんだから寝てろ。明日に俺たちと交代だ。いいですかねアルさん?」


「そうしてくれ。俺も明日から見回りをする」


「では、わたしは店番を」


「わたしはめいなーどへっくすといっしょにいるっ」


「では各々、突然の壁に注意していきましょう。まあ気楽なもんですけども」


「わからないですよ一さん。この機に乗じて、壁を燃やし出す放火魔が出ないとも限らないですし。気を引き締めていきましょう」


「そうだな、二」


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