告白エンカウント
期末テストまであと9日。校内には勉強する者も居れば、まだ大丈夫と数人で遊びに行く者達も居る。私と江奈はどちらかというと前者の方。成績は良いも悪いもある。だから今日も私達は赤点回避を目標に図書館に来ていた。
江奈と2人で黙々と問題を解く。この図書館も先輩が現れるスポットだ。本が好きで、誰かとの会話姿よりも読書姿の方がよく見かける先輩がこの図書館に来ないはずはない。それはテスト期間中の間でも変わらなかった。
なのに、今日は来ていない。今更1人だけ読書をしてるのが不安になってきた……とかではないと思う。私は江奈に問題集の丸付けを押し付けて図書館を後にした。
校舎を一通り見て回って図書館前に戻る。部屋の中を軽く覗いて見るけどやっぱり先輩が居ない。あの特等席は開いたままで、どこか物寂しさを感じた。
「……はぁ。先輩、どこ行ったんだろ____ん!」
横の階段を誰かが上がって来る音がする。目を凝らして待っていると上りきる直前にその音が消えた。気になって近付くと、先輩と知らない女の子の後ろ姿が見える。江奈に心の中で遅れることを謝って2人の背を追いかけた。先輩は掃除に向かうついでにあの女の用件を聞くみたいだ。
2階の渡り廊下は雨風を凌ぐ壁や天井が無い。だから砂が溜まりやすく、校舎内でもあるため美化委員の大事な仕事場だ。持ってきた箒を横に置いて先輩はあの女と向き合う。
あのリボンの色は最上級生! 何で3年生が先輩に用があるんだろう。あの人まず美化委員じゃないし、今はテスト前だよ? 部活だってないだろうから、完全に私的な用事で先輩を引っ張ってる! ……と思う。
女の子の体は戦場に
やっぱりこれ、告白かな? 告白だよね……。それ以外ありえなくない? だってこんな時間に会いに来るって、他に理由がないよ。
耳を澄ませても話の内容は聞き取れない。けどこれ以上は近付けない。そもそも凪津は段々バレないかが心配になってきていた。気付かれる前に階下に降りてやり過ごすことにする。
暫く待ったがどちらも降りてこなかった。恐る恐る上がってみると、先輩が1人で渡り廊下を掃き掃除している。静かな目がこちらを向いた。表情はいつもと変わらない。告白されたのかどうかが分からない程だ。
「所澤」
「長本、先輩」
「美化委員だろ。手伝え」
「ひ、1人で寂しそうですね。はい、手伝ってあげます」
「ああ、手伝ってくれ。わりと大変なんだよ、ここ」
「……そうですか? すぐに終わりそうですけど」
細長い床を箒で掃くだけ。先輩はそうは言うけど直ぐに終わる。そう思っていた凪津に風が吹き付けた。砂が舞い上がって渡り廊下を来た時よりも酷い状態にした。
「な」
「……帰って良い?」
「え、何で。手伝ってくれるって」
「言いましたけどぉ……またこれ、先輩の気が済むまで付き合わされるやつじゃないですか」
「え、いつもそんなに気にしてるか?」
「してますしてます」
「テスト前だ。適当で良い」
「この前もそう言いながら先輩は____」
テスト前の勉強に回せる大事な時間。掃除なんてしてる暇は無い。そう思っていたはずなのに、話しているといつの間にか楽しくなってきていた。
でも、気になることは聞けないまま。いや、聞けないじゃない。
「……聞きたく、ない?」
誰にも聞き取れない小声で奈津は呟く。何で、どうして聞けないの。自身に問いかけても答えは出ない。先輩と話していて出て来るのはテストの問題ばかりだ。先輩は律儀に答えを教えてくれる。けど、この問には答えてくれるだろうか。
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