燦々と鬱
ロヴィーサ
呼吸困難
嫌いなものが多すぎる。青い空、道端に咲く花、野良猫、ひまわり畑、パンケーキ、ブックカフェのカウンター席、濃いめのミルクティー……。上げだしたらキリが無い。何が嫌いかではなく、何が好きかで自分を語れよ。随分昔に聞いた気がする言葉。学校の先生の言葉だったかもしれないし、もっと別の大人だったかもしれないし、クラスメイトだったかもしれないし、なにか創作物の登場人物だったかもしれない。本当に聞いたことがあるかも思い出せないその言葉も嫌いだ。
嫌いなものが多すぎる。
昔は好きだったアーティスト、好きになるかもしれなかった漫画、いつかやって見たいと思っていた髪型、私にとてもよく似合っていたはずのアイシャドウ。その全てがたった一つの付加価値で酷く醜く憎らしい。
嫌いなものが多すぎる。
最初はほんとに些細な嫌悪。ちょっとした趣味の相違。あの子が好きなのは色でいえばベージュ、花でいえば蒲公英、季節でいえば春、天気でいえば柔らかな晴天。
全てを葬る黒が好きで、毒々しい曼珠沙華が好きで、冷たい冬が好きで、重たい雨が好きな私とは交わるはずのなかった趣味。別に今だって交わってなんていないけど、少しでも触れそうに、近づきそうになっただけですら吐きそうな程の嫌悪感と憎悪と怒りが重たく腹の底を埋めつくしてしまう。
嫌いなものが多すぎる。
元々自分のことなんて、好きでもなんでもなかったけれど、あの子と同じものを好む自分はいっそ殺してしまいたいほどに憎らしい。
嫌いなものが多すぎる。
更新されるタイムライン。サイトのリンクと可愛いの文字。全然知らない好みでもない、さっきまで興味もなかった服のブランド。おめでとう、あなたは今この瞬間から興味のないブランドから嫌いなブランドに昇格しました。
たくさんの好きも、興味無いも、知らなかったも。あの子の些細な一言で、余すとこなく憎悪に塗りつぶされて、もうそこに何があったかなんて見えやしない。
嫌いなものが多すぎて、こんなにも生きづらい。それもきっと、あの子のせいに違いない。
燦々と鬱 ロヴィーサ @Loviisa_XXX
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