第8話 毒
関所の近くになり、店があちこちに並んでいる。今は関所を通る旅人もいないので、閑散としているが、店は営業していた。
「人間が寝静まるまで待って、襲撃しよう。」
俺たちは、関所が見える場所に座って休んだ。
そろそろだと思った時、
「おい、あれを見ろ!」
青竹が言った。関所を指さしている。見ると、前の関所には鬼は二匹しかいなかったのに、うじゃうじゃと番屋から鬼が出て来たのだ。六匹はいる。
「どうしてだ?鬼ヶ島に近いからか?それとも、俺たちが鬼を倒したという話がもう伝わったのか?」
青竹が小声でまくし立てた。
「青竹、落ち着けって。そうだな、前のようには行かないようだな。」
俺が言うと、
「何とかなるんじゃね?金棒もあるんだし。」
生成が気楽な事を言う。
「いやあ、二匹でギリギリだったぞ。三倍もいたらどうなるんだよ。」
青竹が言う。
「毒でも食べさせれば?」
びっくりした。さっきまで眠っていた千草が起きてきて、急にそんな事を言ったのだ。
「毒だ?そんなものどこにあるんだよ。」
青竹が言うと、
「そこら辺に生えてるよ。」
千草は、てててっと走って行き、草を積んできた。
「よもぎ?」
俺が言うと、千草は頷いた。
「前に、これを鬼が食べて、苦しがって死んじゃったのを見たの。」
「えー!」
俺たち三人は一斉に叫んだ。急いで口を押える。
「鬼にとって、よもぎが毒なのか?それはいい事を聞いたな。」
俺が言うと、
「それじゃあ、よもぎを食べさせりゃいいんだな?楽勝じゃねえか。」
生成が言った。
「だが、既にこれを毒だと知ってるかもしれないぞ。」
青竹が言う。
「よもぎが入っているとは分からないように、食べ物に混ぜればいいんじゃないか?」
俺が言うと、みんなは考え込んだ。
「さすがに草団子じゃだめだよな?」
生成が言った。
「よもぎが入っているのが一目瞭然だからな。」
俺が言った。
「あんこの方に混ぜればいいんじゃないか?大福もちか何かの。」
「おお、生成、いい考えだな。それで行くか。」
「だが、どうやって大福もちを手に入れるんだ?」
生成が聞くので、
「その辺の茶店で大福を買って、よもぎをすりつぶしたものを入れればいいんじゃないか?」
「いや、そもそもよもぎ入りの菓子を買えばいいんじゃないのか?」
などなど、しばらく問答は続いた。
翌朝、店が開いたら早速あれこれ物色した。よもぎが入っていて、入っているとは分からないものは、当然ながら売っていなかった。それで、普通の大福を六つ買った。
「ああ、鬼に食わすために買うなんて、銭が勿体ないなあ。」
生成が言うと、青竹も千草もうんうんと頷いた。
「俺の金だ。鬼退治のために使う金だ。しょうがないだろ。」
俺は憮然として言った。だが、本当の事を言えば、鬼なんぞに食わさずに自分で食べたいのが事実。
「あれか、二匹なら倒せるから、毒入り大福は四つでいいか。二つは俺たちで分けて食うか?」
誘惑に負けた。他の三人も目を輝かせて頷く。俺たちは、大福二つを半分に割り、四人で分けて食べた。
「うーん、うまい!」
きび団子もいいけれど、大福は何てうまいんだ。そりゃあ、高価な菓子だからな。
そして、よもぎを摘んできて、石ですりつぶした。千草の細い指で大福に穴を開け、すりつぶしたよもぎをそこから入れ、あんこの真ん中まで入れたら、また元のように餅で穴をふさいだ。
「ようし、四つの毒入り大福、出来上がり。いっしっし。」
青竹が言い、皆でいっしっしと笑った。
夜になり、人気がなくなった頃、青竹が紙に包んだ大福を持って、関所に近づいた。頬かむりをし、闇に紛れ、番所の前の小机に大福をそっと置いた。
「食べろ、食べろ。」
後ろの方の闇の中で、俺たちはその様子をじっと見ていた。青竹が戻ってくる。鬼たちは何をしているのやら、二匹が外で見張りをする以外、残りは番屋の中にいる。見張りは交代でしているようだった。
「あ、気づいたようだぞ。」
見張りをしていた一匹の赤鬼が、大福を一つ手に取った。すると、もう一匹の見張りの青鬼も近づいて行った。何か番屋の中に向かって赤鬼が叫び、中からもう一匹の赤鬼が顔を出した。そして、大福を見ている。首を振ったりしている所を見ると、誰が置いたのか、知らないなどとやり取りしているのだろうか。
「鬼って、しゃべるんだな。」
生成が言った。
「鬼同士、意思疎通ができているようだな。」
青竹が言った。
中から顔を出した赤鬼は、残り二つの大福を中に持って行った。見張りをしていた赤と青の鬼は、それぞれ持っていた大福を同時に口に入れた。そして、噛んで、飲み込む。すると、急にその鬼たちはのどを押さえ、腹を抱え、苦しみだした。地面に倒れ込む。
「やったぞ!」
俺たちはこぶしを強く握った。さて、そろそろ出番だ。
「生成、行くぞ。」
「おう。」
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