第7話 女の子
朝になった。
「ああ、腹が減った。」
目を覚ますなり、生成が言った。俺は腰にぶら下げていたきび団を取り出した。すると、二つしかなかった。
「二つ、だな。」
生成が、きび団子から目を離さずに言った。青竹も目を覚まし、きび団子をじっと見る。ああ、ここは譲るべきか。だが、すごく腹が減っている。きび団子は俺の物だ。だが、きび団子で釣った二人に、ここでやらぬわけにも行かぬ。
「しょうがない、お前らに・・・」
そう言いかけた時、泣き声のようなものが聞こえた。子供か?
納屋の反対側へ行ってみると、女の子が泣いていた。
「どうしたんじゃ?なぜ泣いている?」
俺が声をかけると、その女の子はびっくりして一瞬泣き止んだ。
「誰?」
「怪しい者じゃねえ。俺は朱李と言って、鬼退治に向かっている者じゃ。ほれ、きび団子食べるか?」
「あー!」
生成と青竹がそう叫んだが、俺はきび団子を女の子の方へ差し出した。
「いいの?」
「いいぞ。」
俺が言うと、女の子は両手で二つのきび団子をそれぞれ取り、がむしゃらに食べた。どうやら腹が減っていたようだ。
いい事をした気分で、俺たちは出発した。だが、やはり腹が減っている事は否めない。ふと脇を見れば、畑が続く。おお、これは大根じゃ。たくさん埋まっている。
「よし、ここはこの大根をいただくとしよう。」
俺がそう言って、大根に手を伸ばすと、
「おい、人の畑を荒らすのは、鬼と同じじゃないか。」
と、意外にも生成が言った。
「そうだぞ。」
青竹も言う。
「だけどよう、腹が減ってはこの先鬼にも勝てないだろ?」
俺がそう言って尚も大根に手を伸ばすと、生成がそれを止める。押し問答しているうちに、
「はい、もらってきてあげたよ。」
と言って、さっきの女の子が大根を一本抱えていた。
「え?さっきの子?」
青竹が言うと、その女の子は大根を差し出した。俺たちはそれをもらって、三つに割って食べた。
「それで、お前はどうして付いてきた?」
人心地ついて、ようやく女の子に尋ねた。
「だって。どこにも居場所がないもん。」
「お前、名前は?」
青竹が聞いた。
「千草(ちぐさ)。」
「いくつだ?」
生成が聞く。
「八つ。」
「お前の家はどこだ?」
俺が聞くと、
「家はない。鬼に壊された。親も殺された。」
千草は言った。
「え?じゃあ、お前はいつもどこに寝てるんだ?」
青竹が聞いた。
「みんな、食べ物を分けてくれるけど、家には入れてくれない。どこにも寝場所はない。」
千草はまた、目に涙をためた。
「そうかそうか。それは気の毒な事だ。朱李、連れて行ってやろうよ。」
生成が言った。
「だけど、俺たちについてきたら危険だぞ。」
青竹が言った。
「それに、足手まといになるだろうし。」
「お前が言うか。」
俺はそう言って苦笑した。青竹はぷいっと口を尖らせた。言い返す言葉もないらしい。
「わーかったよ。俺と一緒にいればいいよ。な、千草。おれは青竹だ。これが朱李で、こっちが生成。一緒に鬼ヶ島へ行こう。」
青竹がやけになって、かどうか知らんが、そう言って俺たちを紹介したのだった。
千草はいい仕事をした。ゆく先々で、食べ物を分けてもらってくる。皆、幼い子は可哀そうだと思って、けれども自分の家では引き取ってやれないからと、食べ物を気前よくくれるのだ。千草も良く分かっていて、哀れな表情を浮かべて食べ物をねだる。だが、俺たちと一緒に行動すると、千草の表情はだんだん明るくなってきた。
「千草、疲れたか?おんぶしてやろうか。」
夕方近くなると、俺は千草をおんぶしてやった。なるべく早く鬼ヶ島へ行くために、あまり休まずに歩かなければならない。千草には大変な苦労だろう。
「朱李、そろそろ関所が近づいてきたようだな。店の灯りが見え始めたぞ。」
青竹が俺にこっそり言った。俺は黙って頷いた。
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