第68話
パティの登場に、それほど動揺を見せないへリウス。そして私も、フーカの『臭い』から、新たな獣人が来た可能性は考えてた。
ただ、それがパティだったのは意外だったけど。
それも、王太子と一緒とか。私のことを王家にチクったのは、コイツなのは確定だな。
私たちの反応が不服なのか、パティは不機嫌そうな顔に変わる。
「パティ、なぜ番になってないとわかるのだ」
そんなパティの様子に気付かずに、私の顔を見つめながら期待をこめた声で問いかける王太子。うわぁ~、気持ち悪い。
「……獣人はね、相手が本当に番っていれば、嫌っていうくらいにお互いの匂いをまとっているもんなんです。当然、その匂いは他の獣人にはまるわかり」
その言葉にちょっとゾッとする。どんだけ執着心あるのよ、獣人は。
「でも……ヘリウス様にも、メイリン……様にも、その匂いはまったくございません」
「であれば」
「はい、まだ」
「問題ないっ! メイリン! 婚約者殿! どうか、王都へ」
「行くわけないでしょ」
「ぐはっ」
話しながらずんずんと私の方へと進んできたので、脇腹に回し蹴り、入れました。
なかなかのクリティカルヒット!
やだー、鍛えた甲斐があるわ〜。
「殿下!?」
「メ、メイリン様っ?! 何をなさいますかっ!」
護衛の騎士たちが慌てて、床に転がった王太子を抱きかかえる。
所詮、女子の蹴りなんだから、大したことないでしょうに、大袈裟な(鍛えてたけど)。
「あら、失礼」
手で口元を隠しながら、私なりに最大限蔑んだ目で見下ろす。
「まるで変質者のようだったので、自然と身体が動いてしまいましたわ」
「う、ううう、へ、変質者……だなんて……」
脇腹を抑えながら、うめき声をあげる王太子。
「あらぁ〜、だって、そうでしょう? 婚約者候補が見ているのも構わずに、他の女と営んでいるところを見せつけるなんて~、変質者以外の何者でもないでしょうに」
「あ、あれは、ち、違うと」
私の言葉に、赤くなったり青くなったりと忙しい王太子。護衛の者たちも知っている話なのか、彼らも何も言えなくなっている。
「はんっ、それが何だっていうのさ」
どうでもいい、とでも言うように声をあげたのはパティだった。
「獣人だったら、そんなの、大した話じゃないわよ、ねぇ、へリウス様」
「……」
「私たちだってぇ~、散々、楽しんできたじゃないですかぁ~」
するするとへリウスの傍に近寄ろうとして、手を伸ばそうとしたパティだったけれど。
「うっ」
へリウスの冷ややかな視線を向けられただけなのに、顔を真っ青に変わっている。
「な、何、するん、ですかっ」
段々と呼吸が苦しそうになっていく。何が起こっているのだろう?
「へ、へリウスさ、様っ」
「近寄るな」
「へッ、へ、リ」
「死にたいのか」
その言葉でへリウスの本気が伝わったのか、ずるずると後ずさっていく。
「……お前とのことは、親が子供の面倒を見るようなものだった。それは獣人であれば、当然理解しているものだと思ったんだがな。お前が理解できていなかったのは、私の不徳の致すところではある」
「……」
ギリリと歯を食いしばる音が聞こえるが、相変わらず、パティの顔は青ざめている。
「これ以上、番であるメイを苦しめるようなことをしないと誓ったのだ」
ギュッと抱きしめながら、私の頭にまたキスを落とす。
――まったく。
何をやっても絵になるへリウスに、ちょっとイラっとするのは仕方がないと思う。
「次に私に触れようとしたら、その腕、たたっ切るからな」
おっと。いきなり、悪人モード。
「な、なんでっ」
「お前の両親にも、連絡済みだ」
「えっ」
「国に戻るならよし、そのまま冒険者を続けてもよし、ただし、私の前に二度と顔を出すな。次に顔を出したときは、命の保証はないと思え」
「そ、そんな」
「それくらい、運命の番は絶対なのだよ……今のお前にはわからんだろうがな、パティ」
最後のその言葉を言うへリウスは、一瞬、少し寂しそうな顔をしたように見えた。
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