閑話:王都防衛(2)
結界が消えたことは、王城から見守っていた王族達にもすぐにわかった。
その場にいたのは、国王と王妃、そして側妃とその子供たち。その中には、謹慎のために北の塔へ閉じ込められていた王太子もいた。
「なっ、ど、どういうことだっ!」
そう叫んだのは国王。隣に立つ王妃に目を向ける。
王妃の方も、一瞬、何が起きたのかわからず、目を瞠る。
「エリザベート、これは、どういう」
「……落ち着きなさい」
王妃は大きく息を吸うと「宝物庫へ行きます」と言い、部屋を出ていく。
その場にいた王族たちは、彼女の後を追いかけるしかなかった。
* * *
長い廊下を小走りに進んで行く。
王城の中でも奥まったところにある宝物庫。王妃の掌が入口の傍にある黒い板に触れると、ドアが自動で開いた。
「やっぱり……」
王妃は宝物庫の奥、『守護の枝』が飾られているはずの壁を見て、そう呟いた。
そこには、ただ石壁があるだけ。『守護の枝』の姿は影も形もない。
「王妃よ、これは」
「ここに『守護の枝』があったのは、ご存じよね」
「!? まさか、盗まれたのかっ」
「……あれは、トーレス王家の血筋の者しか、手にすることは出来ません。そして、今、アレが使えるのは、私か、メイリン・フォン・ゴードンのみ」
王妃の冷静な言葉に、名ばかりの王族たちが固まる。
「この意味がわかりますね。アルフレッド」
「……」
「私がいなくなった場合……アレが使える者のいない王都が、どうなるか。今の状況で理解できましたか」
冷ややかな目が、アルフレッドに突き刺さる。
「……貴方がやったことは、国の防衛基盤を揺るがすようなことだったのですよ」
「そ、そんな、大袈裟な」
そう反論したのは側妃。しかし、王妃に睨まれて「ヒッ!?」と声を上げる。
「今頃、城壁では魔物で溢れていることでしょう。近衛師団たちは無事だろうか。魔術師団は? ……彼らが総崩れになったら、次は王都に住む者、そして……私たち」
「そ、そんな」
「多少は剣の腕があるのなら、お前も近衛師団の元へ向かうか。アルフレッド」
「お、王妃よ、そこまで言わずとも」
「現実を見てください、国王」
「……」
「貴方たちでは『守護の枝』は使えない」
王妃の言葉に、国王は反論できなかった。
元は何代も前に王族が降嫁したこともあった公爵家の三男坊。
しかし、王家の血筋というには、程遠いものがあった。
「お、王妃様っ、け、結界が、結界が戻りましたっ」
廊下から、衛兵の叫び声が聞こえてきた。
王妃は再度、『守護の枝』の飾られていたはずの壁へと目を向ける。
「……戻ってきてくださったのですね」
王妃の呟きに、その場にいた者たちは驚きで言葉を失う。
「まだ、『守護の枝』の正式な主人は私だということなのでしょう。しかし、いつまでも私の元にいてくださるとは限らない……アルフレッド、なんとしても、メイリンを連れ戻すのです」
王妃の冷ややかな声が、宝物庫に響いた。
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