第10章 やっぱり、ケダモノよりもケモミミが好き
第65話
スタンピードからそろそろ約3か月が経とうとしている。
当然、領都周辺に大量に残された魔物の遺骸はすでになく、焼け野原になってしまった森の跡にも、少しずつ緑の芽が出てきている。
王都の方にも魔物が向かったらしいが、辺境とは違い、強力な魔術師団がいる場所だけに、なんとかなったらしい。
それに比べて、国からの援助もなく守り切った我がゴードン辺境伯領って、スゴクない?
「メイリン様、また王太子様より、お手紙が来ておりますが」
自分の部屋で、魔術に関する本を読んでいると、私専用の執事、ポールが恭しくトレーに載った手紙を差し出した。
「ほんっとに諦めが悪いわね」
「……それだけ王位に執着がおありなのかと」
「ダッサー」
「……はい?」
「なんでもないわ。そこのテーブルの上に置いておいて」
「……失礼します」
結局、王都にいた使用人たちの全員が、ゴードン辺境伯領へと戻ってきていた。王都で執事をしていたポールもその一人。その上、王都で採用した者たちまで一緒に来てしまったのには、驚かされた。
まぁ、領民が増えて困るような土地でもないので、よいとは思うが。
おかげで、今では王都の屋敷は無人状態らしい。
このままの勢いで、ゴードン辺境伯領も独立か、と勝手に盛り上がる者たちもいたけれど、現時点では、そんなことにはならないらしい。
確かにスタンピードは抑えたけれど、王都にいる魔術師団に攻められたら、どうこうできるとは思えないし、そもそも、国境を挟んで、ナディス王国が虎視眈々と狙っているところで、独立のなんのという余裕はない。
その上、スタンピードが終わって1か月もしないうちに、あちこちから私への婚約の打診が来るわ、来るわ。その一方で、誘拐未遂、暗殺未遂、がそれぞれ2件(まぁ、これは王家絡みではなかったようだけれど)。
たぶん、スタンピードで使われた『守護の枝』のことが、あちこちで噂になっているのだろう。あの時は、周りのことも何も考える余裕などなかったし、あのどさくさに紛れて、他領の間者が紛れていてもわからなかった。
間者に限らず、人の口に戸は立てられぬ、という奴なのかもしれないが。
とりあえず、王家からの脅しはピタッととまり、代わりに王太子からの手紙が届くようになった。中身は、再度の婚約のお願いだ。くどくどと詫びと愛の言葉(うぇ~)が書き連ねられている。
王家からの出頭命令ではないあたり、王妃様にでも、自分でなんとかしろ、と言われているのかもしれない。
私は王太子からの手紙を手に取ると、ペーパーナイフで封を切る。
「……あ゛?」
はしたない声が出てしまったのは許してほしい。
「迎えに来る、だって?」
王太子、何をとち狂ったか。
私を王都に連れ戻すために、辺境伯領にやってくるらしい。事前に連絡もなく、もう出立しているという。手紙の日付は1週間程前。王太子自身が馬車で移動してくるのを見越しても。
「ちょっと、これって、もう来ちゃうってことじゃないの?!」
思わず、その場で立ち上がった。と、同時に、ドアがノックされる。
なんか、このタイミング。悪い予感しかしないんだけど。
「何」
「……メイリン様」
ドアを開けて顔を出したのは、申し訳なさそうなキャサリン。
「あの、お」
「言わないで」
「え」
「あの、エロガキが来たんでしょ」
「え、えろがき?」
私の言葉に、目を白黒させるキャサリン。
「行くわ」
「あ、は、はいっ」
久しぶりに会う王太子に、何を言ってやろうか、悪い笑みを浮かべながら部屋を出る私なのであった。
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