第62話
土壁の方へ目を向けると、魔物の手がいくつか土壁にかかっているのが見えた。そして、その上に人型の何かが登りきったところで……落ちた。
「……落ちたわね」
「落ちましたね」
ぞろぞろと土壁を越えてきては落ち、堀の中がどんどん魔物で埋まっていく。あの灼熱の中を越えてくる魔物の狂気に、怖気が走る。
そのうち止まるんじゃないか、止まって欲しい、と思っているけれど、魔物のスピードは落ちずに、堀がどんどん埋まってくる。
「……溢れるぞ」
誰かが、ぼそりと呟いて、ハッとする。
「急いで、動けるものは城壁に集まって! できる限りの攻撃をっ!」
私の声に、固まっていた者たちが慌てて動き出す。
もうこれ以上、私に出来ることはないのだろうか。土の精霊は、まだそばにいるけれど、彼らに攻撃魔法のようなモノが出来るのか。不安になりながら問いかける。
「ねぇ、あなたたちは、攻撃魔法は使えるの?」
「こいつらには無理だろう」
いつの間にか私のそばに戻ってきたへリウス。血まみれで、鉄臭い匂いに、一瞬、吐き気をもよおしそうになった。
「ああ、すまんっ」
慌ててクリーンの魔法を使って、身綺麗にしてくれた。
「いえ、ご無事で何よりです……それと、この子たちには無理ですか?」
「ああ、こうして光の玉として顕現しているくらいには強い精霊ではあるが、攻撃魔法ができるのは、もっと上位の精霊たちだ」
「……そうなの?」
「ああ、人型を維持できる力のある精霊たちが、精霊と契約している魔術師と共に攻撃することができるのさ……ああいう立派な土壁は作れるがな」
――悔しい。
私以外の誰もが、何かしらを手にして、魔物へと攻撃を与えているのに。
「メイリン、ここは危ない。お前は、城の中に戻れ」
「へリウス……私は、無力ですね」
目を落として、そう呟く。
「無力などではないっ」
へリウスが抱きしめてきた。
「どうやったのかはわからんが、あの結界は、お前だろう?」
目の前の厚い胸元に、思わず顔をよせ、小さく頷く。
「……お前がいなければ、俺もファリアも溢れた魔物に飲み込まれていただろう。だから、無力などではない」
「へリウス……」
もう、これ以上は、防衛は無理かもしれない。そう思えるくらいに、堀は埋まり、魔物が城壁の方へと向かい始めている。
悔しく思いながら、彼の身体をギュッと抱きしめ返した。
「うん、いい雰囲気のところ、申し訳ないんだけど」
……え?
「ちょーっと、大きい魔法使うんで、兵士さんたち下げてくれる?」
呑気な声でそう言ったのは、出産立ち合い中と言っていたはずの、ミーシャだった。
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