第61話

 じりじりと焼けるような熱気に煽られて、我に返る。


「母様たちはっ」


 なんとか立ち上がり、再び城壁から身を乗り出そうとするけど、熱気に押されて顔を手で覆う。なんつう熱さよっ。


「メイリン様、ファリア様でしたら、へリウス様が抱えて走っていらっしゃいます。今、ちょうど土壁に囲まれた街道の中を走っておいでです」


 キャサリンの冷静な言葉に、ホッとする。

 やっぱり、あんな大技の魔法だもの、力尽きてて当たり前。それをへリウスがフォローしてくれたのか、と思うと、感謝の気持ちが湧き上がる。


「小物の魔物たちは、ほとんど殲滅されたようなんですが、あの火に耐えられる大物が、まだ残っているようで……こちらに向かってきています」

「なんですって」


 土の精霊に作ってもらった土壁は、あの熱風を受けても無事な模様。むしろ、焼けて、硬度が上がっているんじゃないか、と思うくらい。

 街道を走っている馬に乗った者たちの先頭は、続々と城壁の中へと駆け込んできている。しかし、殿にいるへリウスたちの後ろから、かなり大柄なオークらしき魔物が追いかけてきている。これ以上増えないようにしないと。


「土の精霊さん、街道の土壁の入口を閉じてっ」


 私の言葉に、ドドドッと勢いよく入口が埋まる。通り抜けようとした魔物は、思いっきり潰されている模様。これで追撃してくる魔物はいないはずで、このまま、城壁内に入り込めば後はなんとでもなる、と思っていたのに。


「な、なんで、戻るのっ!?」


 城壁のそばまで来たところで、母を衛兵に託すと、へリウスは生き残っていたオークに向かっていく。


「どんだけ、戦闘狂なのよっ!」


 追撃してきたオークは、多くはないとはいえ、絶対、一人でなんとかする数じゃない。例え、Aランクの冒険者でも、無事に済むはず……。


「え、あれ、何?」


 とても小さな子供みたいな者たちが、へリウスの後を追っていく。

 へリウスが大きなオークと戦っている間に、他の魔物たちへと向かったと同時に、すり抜けていくたびに血しぶきがあがった。何体かが倒れていく姿に、唖然としてしまう。


「ちょっと……凄い。キャサリン、彼らは、何? ……ドワーフとも違うわよね?」

「ああ、たぶん、ホビット族ですね」


 え、え、えぇぇぇ? ホビットって、あの、指輪の? 

 指輪のイメージじゃ、もっと、おっとりとしていて、戦いなんて好んでするような種族ではないんだけど。こっちのホビットは違うの?


「まさか、彼らがこちらの大陸にいるとは思いませんでした……彼らの多くは海を挟んだ反対側の大陸にいるので」


 おそらくは冒険者だろう、というのは想像がつくけれど、ちょっとびっくりだ。

 そんな彼らの素早い動きに目を奪われているうちに、街道に入り込んでいた魔物たちは殲滅されている。

 すでに魔物を倒し終えていたへリウスは、笑顔を浮かべながら、ホビットたちと拳を打ち合い、城壁の方へと戻ってきている。


 ――無事でよかった。


 血まみれの姿ではあっても、しっかりと歩いている姿にホッと胸を撫でおろした瞬間。


「魔物がっ、魔物が土壁を越えてきましたっ」


 衛兵の叫びに、再び、緊張が走った。

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