第41話

 久しぶりに会う母は、明るい茶色い髪をギュッと一つにまとめ、銀色に輝く鎧に赤いマントを靡かせて颯爽と入ってきた。さすが辺境を守るだけある。某女性だけの歌劇団の男役みたいにカッコいい。


「メイリンッ!」

「……お、母様……」


 王都では、ひたすら大人しく、嫋やかな、皆に敬われるような女性になるように、と、教育を受けてきた。だから、目の前の男性のような姿の母を見たら、なんてみっともない、というのが、その当時の私であったら出てきた言葉だったろう。

 しかし、今の私は、そんな母の方が素敵だと思った。


「よかった! 無事に帰って来ることができて! それに大きくなって! 顔をよく見せて」


 母の目には、薄っすらと涙が浮かんでいる。こんな強そうな母に、似合わない。


「ああ、やっぱり、あなたはアーサーに似てきたわね。その優しい面差しは、彼にそっくりよ」

「でも、性格はファリアに似てるみたいよ?」

「ミーシャ! 助かったわ! 本当、タイミングよく、遊びに来てくれたのが奇跡ね」


 ……どう見ても、母とは年が離れすぎてて、友人同士には見えないんだけれど、二人の距離感は、友人のそれにしか見えない。


「確かにね。あの駄犬が、珍しく伝達の陣で手紙なんか送ってきたもんだから」

「……ヘリウス」

 

 私を抱きしめながら、母は地を這うような声で、彼の名を呼ぶ。

 ビクリと身体を震わすヘリウス。


「な、なんだよ……だ、駄目元で頼んでみたんだ。ほ、ほら、ミーシャは忙しいだろ?」

「でも、頼んだ内容が内容じゃない」

「あ、ちょ、それは、まだっ、うわっ」


 ミーシャと呼ばれた彼女の言葉を止めようと立ち上がろうとしたヘリウスだったけれど、足がしびれたのか、呻き声をあげて蹲った。


「……ったく。ヘリウス、あんたも、本当に馬鹿よね」

「ミーシャ、馬鹿とは……ひどいじゃないか」

「馬鹿だから、馬鹿って言ってんのよ」


 ミーシャは呆れたようにため息をつく。そして、私の前に座りなおした。


「まずは、現状のことを説明したほうがいいわよね」

「あ、はい。どうやって、私、ここに来れたのか……」

「うん、そうだね。ちょっと色んなことが重なって、こういうことになったんだけど……まずは、私はミーシャ。ファリアとは二年前だったかな、ちょっと仕事の依頼があったもんだから、そこで知り合ったの。それと、そこのヘリウスはもうちょっと前かな。彼とは、ダンジョンでだっけ?」

「……ああ」

「そっちは、なんか身内に強引に連れて行かれた結果なんだけど」


 私と大して年齢のかわらない彼女が、母やヘリウスと仕事をしている、というのが、信じられない。


「まぁ、そういうわけで、互いに連絡をとる、くらいには親しいの。で、まず最初は、ヘリウスから連絡がきたのよ。『番を見つけた。祝福してくれ』と」

「『番』ですって!? まさか、それが」


 おお……母の怒りのヴォルテージが、どんどん上がっていく。


「そ。そこにいるメイリンちゃんね。まぁ、普通に祝福くらいはするわ。ちゃんと、番になったんだったらさ。でもヘリウスは、恐らく、そういう意味の『祝福』じゃないんでしょうけど」

「ミ、ミーシャ、ま、まずは、その、メイの母上にだな……」

「だまってろ」

「……はい」


 母に劣らず、ミーシャも強い。あのヘリウスが言い返しもしないなんて。

 私は唖然としながら、彼女の話に耳を傾けた。


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 ※ミーシャ:『おばちゃん(?)聖女、我が道を行く ~聖女として召喚されたけど、お城にはとどまりません~』に登場


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