第39話
ヘリウスの叫び声に、すぐに飛び込んできたのはハイドとロー。キャサリンも顔を青ざめてドアから中を覗き込んでいる。
「ちょ、ちょっと、お嬢さん、なんてことを」
「はぁ!? 貞操の危機に、なんてことも何もないでしょう」
「え、まさか、ちょ、へ、ヘリウス、マジか」
「ふんっ、キャサリン!」
「は、はいっ」
私の声に、ビクッとしている。そりゃそうだろう。今まで、こんな風に怒鳴ったことなどなかった。しかし、へリウスのせいで、冷静さはどこかへいってしまった。完全に私の怒りはMAX状態。
「まさか、貴女に裏切られるとは思わなかったわ」
「お、お嬢様、私はけしてっ」
「言い訳は結構。今すぐ、お母様に手紙を送りなさい。この者たちとの契約は無効。そして、お前も私と同行する必要はない」
「なっ!? お、お嬢様、それではっ」
「二度と同じことは言わない。言われた通りにしなさいっ」
悔し気に顔を歪めるキャサリン。それでも、言われたことはやるつもりらしく、部屋の片隅のテーブルにで手紙を書き出す。
「おいおい、ちょっと落ち着けよ」
ハイドが困ったような顔で宥めようとしているが、私の怒りは治まらない。
なんか、どんどん言葉でもなんでも吐き出さないと、熱くなってきて……爆発しそう。
「え、ちょっと、まて、お嬢さん、ま、まさか」
呻き続けているヘリウスの側にいたはずのローが、慌てて何やら言ってるが、私の耳には入って来ない。
「ま、まずいぞ。あれは、魔力暴走の兆しだ」
「な、なんだって」
「え、だが、あのお嬢さん、生活魔法くらいしか使えないんじゃ」
「ああ、そうだった。そうだったんだが、……まさか、もしかして、使えないようにされてたのか!?」
「メ、メイ……」
どうしてこの世界の男は、なんでもかんでも女に言うことを聞かそうとするのか。
言うことを聞かなければ、怒鳴り、暴力を振るう。野蛮な奴ら。こんな奴ら、みんな消えてしまえばいいのにっ!
「うわっ、ちょっとベッド、ベッドに火がっ、な、なんで?」
「まずい、お、お嬢さん、お、落ち着いてくださいっ! 深呼吸、深呼吸ですよ」
『煩いっ!』
思い切り腕を振るうと、簡単にローが飛ばされ壁に激突した。呻き声一つあげずに、そのまま倒れたままのロー。
「ロ、ロー!」
「メイ、メイ……悪かった、悪かったから、落ち着け……」
「お、お嬢様!?」
『悪かった、ですって? 何が、悪かったのかも、わかってもいないくせに』
私が向けた目に、ヘリウスは一瞬、寒気を感じたかのように身震いする。
『誠意のない謝罪など無意味。貴方の存在も無意味』
「メイ! そんなこと言うな!」
『気安く人の名を呼ぶな!』
ドンッ、と空気の圧がヘリウスを吹き飛ばす。
「ぐっ、はっ」
「ま、マジかよ……あのお嬢ちゃん、なんなんだ……」
「お、お嬢様……」
呆然とするハイドに、キャサリンはカタカタと震えている。
そんな彼らの脇に、一瞬、空間が歪み、人影が浮かび上がる。
そこに現れたのは。
「あら、やだ。なんてタイミングで来ちゃったかしら」
15、6才くらいの女の子。
……黒髪に黒い目……今まで見たことがないアジアンな顔……まさか、日本人?
というか、何、あれ。テレポート? 何、SF? SFなの?
「何、ヘリウス、ぶっ倒れて。カッコ悪~」
続いた彼女のセリフに驚いているのは、私だけではなかったみたいだけど、それのお陰で、怒りは霧散して……
「メイッ!」
再び意識を失ったのだった。
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