第6章 もう我慢の限界ですっ!
第35話
なぜ、ヘリウスがここにいるのか。
まったく理解できずに、一瞬、頭が真っ白になる。
「……メイ、なぜ逃げた」
ヘリウスの責めるような声に、少しだけ頭が回りだす。
とりあえず、私は同じベッドでヘリウスに抱きかかえられているらしい。キャサリンがいないのは、他のメンバーによって連れ出されているのかもしれない。
「なぜ、逃げた」
その言葉にカッときて、口元を抑えていた大きな手を強引に剥がした。
「逃げた、ですって」
「ああ、そうだ」
「逃げたんじゃないわ、あんたたちが置いていったのよっ」
「嘘をつくな、俺たちが」
「私たちのことなんか気にしないで、どんどん先に行ったのは誰? 探しにも来なかったし、声もかけなかった。ああ、国の英雄は市民の声に耳を傾けるのに、お忙しかったわけね
。冒険者の仕事よりも、それを優先したわけか」
最初は押し殺していた声も、段々と大きくなる。
私の剣幕に、ヘリウスも言葉をなくし、私を抱え込んでいた腕の力も抜けていく。
その隙に、私は彼の中から逃れ、床に置きっぱなしになっていた荷物に手を伸ばす。
「何が、Aランクの冒険者よ。相手にするのは魔物だけって? 護衛の仕事って、そんなもんなのね。冗談じゃない。高い金だけ払わせて、こんな中途半端な仕事をするようなヤツ、こっちから願い下げよ。契約は破棄するわ。依頼失敗、おめでとう! キャサリンはどこ!」
「メイ、落ち着け」
「はっ!? 十分、落ち着いてます。もう、貴方方と行動を共にするのは、うんざり。獣人が魔の森じゃ、あんなケダモノになるなんて、思いもしなかったわ。もう二度と獣人には仕事は頼まないっ。キャサリン! キャサリンはどこよっ!」
「メイっ!」
部屋のドアを開け、キャサリンを呼ぶ。その声に、宿のおばさんが慌てたように出てくる。
「どうかなさったんですか!?」
「どうか、じゃないわっ! なんで、私の部屋にあの男がいるのよっ。勝手に人の部屋に入れるなんて、宿屋としてどうなのっ! キャサリン! キャサリンはどこよっ!」
「え、え、ヘ、ヘリウス様、これは、どういう……」
ヘリウスの名前を出しているあたり、やっぱりおばさんもわかってて通したのだ。困ったような顔をしているけれど、勝手に入れた方が悪い。
私の騒ぎに、他の部屋に泊まっていた客たちも不審そうな顔でこちらの様子を窺っている。
「メイっ! いい加減にっ……」
「いい加減にするのは、そっちよ! 二度と、私に触れないでっ! 汚らわしい! キャサリンをどこに連れてったのよ! キャサリン! キャサリン!」
「くそっ……すまん」
「くっ!?」
首に衝撃を受けた私は、真っ暗な闇の中へと落ちて行った。
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