第33話

 脇道といっても、大通りよりも少し細いだけで、同じように露店がいくつか並んでいる。日が落ちているせいもあってか、少し人通りは少ない。

 大通りは獣人以外の人族の姿も見受けられたが、こちらはほとんど獣人しか見かけない。彼らの生活空間なのだろう。ついつい物珍しくて、宿屋を探してるのに、獣人たちに目がいってしまう。

 それでも私とキャサリンは黙々と歩き続けるが、表通りではすぐに目についた宿屋の看板も、一本脇に入っただけで、ほとんど目に入らなくなった。


「お嬢様」


 キャサリンに呼ばれ、振り向くと、少し奥まった所に宿屋の小さな看板があった。そこには、看板同様にこじんまりした宿屋があった。

 私は小さく頷くと、その宿のドアを開けた。


「はい、いらっしゃい」


 焦げ茶色の丸い耳をしたぽっちゃりした獣人のおばさんが、カウンターの中から声をかけてきた。彼女は何の獣人なんだろう? クマ? タヌキ? などと思いながら、カウンターの近くへと向かう。


「二人なんですが、今から泊まれます?」

「お部屋はご一緒で?」

「ええ」

「であれば、大丈夫です。ちょうど最後の一部屋がありますよ」

「よかった」


 私とキャサリンは目を合わせて、互いにホッとする。


「お食事はどうします? 一応、1泊2食でお一人様、銀貨2枚頂いてるんですが」

「お願いします……食事はすぐにお願いできますか?」

「ええ、大丈夫ですよ」


 さすがに保存食は飽きた。温かくて美味しい料理が久しぶりに食べたい。

 食事はカウンターの奥にある食堂で出されるという。そう言われれば、奥から美味しそうな匂いがしているような気がする。


「先にお金を頂けますか……はい、では、鍵はこちら」


 私たちはすぐに2階にあるという部屋へと案内されると、床に荷物を置き、二人同時にベッドに倒れ込んだ。


「……ベッドだ……」

「ベッドですね……」


 ほぼ同時に漏れた言葉に、互いに目を合わせ、クスクスと笑いだす。こんな風に笑ったのは、いつ以来だろうか。

 男たちを意識することもなく、パティの嫌な視線もない。

 まだ辺境伯領に着いたわけではないものの、少しだけ肩の力が抜けたと思う。

 日差しの匂いのするこのベッドは、悪魔のベッドかもしれない。このまま倒れこんでいたら、寝てしまう。私たちは起き上がると、自分自身とベッドにクリーンをかけた。


「できれば清拭もしたいわね」

「後でお湯を頂いてまいりましょう」

「悪いけど、お願いできるかしら」

「かしこまりました」


 その後、二人で食堂に行ってみると、宿の雰囲気そのままに穏やかな客が多く、ゆったりとした気分で懐かしい感じの温かい食事に満足した私たち。

 部屋に戻り、身体を拭いてスッキリしたら、もう眠気には勝てない。

 互いに言葉もなく、そのままベッドに倒れこんでいた。



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