第30話
結界が薄くなっていくのに気付いた魔物たちが、ウロウロしながら私たちを見つめている。そして、いよいよ結界の一部が消えかけ、そこから中に入ってこようとした瞬間。
「ギャウンッ」
一匹の魔物の叫び声が、森の中に響いた。
「わりぃ、遅くなった」
まさかの魔物の背後から声をかけてきたのは、あの馬鹿ヘリウス。
余裕の声に、悪気があるようにはまったく聞こえない。私に攻撃魔法が使えたなら、ファイヤーボールで丸焦げにしてやったのに!
「わりぃ、じゃないわっ! どこ行ってたのよっ」
「ちょっと野暮用でな」
私の方を見ようともせず無表情で言いながら、近くにいた魔物たちに切りかかるへリウス。その背後から、案の定、パティも現れる。頬を染めて、彼女は何やら気だるい雰囲気さえ漂わせてる。
……ケッ! リア充爆発しろ!
こっちは、それどころじゃなかったっていうのに!
もう『様』なんて必要ないわっ!
「ヘリウス! 助かった!」
「おう、お前らも、よく頑張ったな」
ニヤリと悪そうな顔で笑うヘリウスに、男どもは、仕方がないな、という呆れた顔で許している。なんなんだ、こいつらは! こっちは下手をすれば生死の境にいたというのに! なぜ許せるの!?
今までも魔物に襲われたことは何度もあった。それでも冒険者四人全員揃って万全の体勢であったから、多少の余裕があった。しかし、半分になった途端、ここまで戦力ダウンになるというのを痛感すると、いかに、信頼のおける相手以外では、冒険なんて出来ない、というのを思い知らされた。
――特に、男は、女次第だと。
ヘリウスが戻った途端、魔物の制圧などあっという間。私たちのあの緊迫した時間はなんだったんだ、というくらい。ハイドとローにしてみれば、私たちのような護衛対象がいたから、余計に戦いづらかったのかもしれないが、それが彼らの仕事なはずだ。
それだけAランクの、特に近接系というのは、化け物じみた力があるということを実感する。その上のSランクというのもあるらしいが、それはもう神の領域なんじゃないだろうか。
「よし、一息ついたら、森を出るぞ」
戦闘の後だというのに、息も切らせずに、そう言い切るヘリウス。他のメンバーは肩で息をしているのにも関わらず。
誰も彼の言葉に返事もできないでいるけれど、ヘリウスは気にせず、周囲を窺っている。そんなヘリウスを熱い眼差しで見ているのは、私、ではなく、パティ。まるで、私に見せつけるようにヘリウスにへばりついていて、気持ち悪いこと、この上ない。
朝っぱらから何をしてきたのか、聞きたくもないが、彼女のあからさまな様子に、気分が悪くなる。
それはキャサリンも同様のようで、パティを見る目が一段と厳しい。同じように感じる仲間がいると、こんなにもホッとするのはなんなのだろう。
「よし、行くか」
ヘリウスのその言葉に、全員が立ち上る。
――早く、早く、この森から出たい。
その一心で、私の足は前へと前へと進んでいく。
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