第29話

 翌朝、鳥の鳴き声で目が覚められたらよかったのだが。


「くそっ! ハイド! 大丈夫か!」

「すまん、油断した!」


 男たちの怒鳴り声がモーニングコールとは、これいかに。

 朝日が上り、木々の隙間から木漏れ日が落ちている様は、まさに理想的な朝の風景、といったところなんだけれど、実際には、いつの間にか野営している周囲に、魔物が現れていたらしい。

 ヘリウスはどうしたのか!


「お嬢様、私がお守りします!」

「キャサリン!」


 こういう時に使えないとか、Aランクの冒険者が聞いてあきれる!

 私は、自分が使える魔法がないか、ずっと考えてきた。しかし、母に習った魔法で覚えていたのはクリーンくらい。なぜ、学校に行った時に学ばなかったのだろうか!

 なんとかキャサリンの邪魔にならないよう、護身用のナイフを手に、キャサリンの背後に回る。

 魔物はどうも、集団で狩りをする狼タイプのようだ。たまたま、火の番をしていたハイドさんが、ちょっとお花摘みに行っている間に、取り囲まれてたみたい。戻るところに襲撃を受けたのか、腕から血を流している。弓師としては致命的。

 ローがなんとか結界を張っているものの、あまり長時間は持たないのは知っている。彼は護るよりも攻撃タイプの魔法使いだからだ。

 結界越しに、うろつく数匹の魔物たち。涎を垂らしながら、今か今かと待ち構えている。


「なんで、こんな時にヘリウスがいないのよっ!」

「起きたらいなかったんだ」

「パティは?」

「あいつも一緒だっ」


 思わず、舌打ちをしたくなる。二人が男女の関係であろうが、どこで何をしようが構わないが、冒険者として契約しているんだから、それなりの仕事をしろ! 

 だいたい、朝っぱらから、狼どもがここをうろついているなんて、どうなってるのよ。


「魔物除けの香は」

「戻ってきた時に確認したら、すでに切れてた」

「なんで!? 途中で交換しなかったの!?」

「まだあると思ってたんだ! それに在庫は、パティが持ってるっ」


 腕の傷を抑えながら答えるハイド。ランクBの弓師も、近接での攻撃は厳しいということなんだろう。私は急いで自分のバッグの中を探ってみる。


「……あった!」


 バッグの底の方に隠してあった、万が一の時用の初級ポーション。ハイドの傷に効くかわからないけれど、何もしないよりはマシ。


「ハイド、腕を貸して」

「だが、それって」

「今、生き残るためよ」


 私の言葉に、グッと言葉を飲み込むハイド。私は初級ポーションの瓶の蓋を開けると、少しだけ傷に垂らし、残りをハイドに飲ませた。


「んんっ、す、すまん。助かった」

「なんとか、弓、引けますか」

「ああ」

「頼みます。貴方たちだけが頼りですから」

「すまんっ! 結界が切れる!」


 ローの悲痛な言葉に、私たちに一気に緊張が走る。

 本当に、使えない男ね! ヘリウス・オラ・ウルトガ!

 ギリリと歯を食いしばりながら、内心、ヘリウスへの罵詈雑言を吐きまくる。



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