閑話:冒険者 ヘリウス
戦友であるトーレス王国のゴードン辺境伯の一人娘、ファリア・フォン・ゴードンから伝達の魔法陣によって連絡が来たのは、タイミングよく王国内での護衛の依頼を終えた直後、ギルドで金を受け取っている時だった。
昔からの知り合いである、ポンピウス商会の商会長のカール・ポンピウスからの依頼は、我が祖国、ウルトガ王国からトーレス王国の王都へ向かう商隊の護衛だった。
今回はたまたま手が空いてたこともあり、カールとの付き合いもあったので受けた話だった。そうでもなければ、あまり獣人に対して好意的ではない者が多い、トーレスの王都になど来ることもなかった。
「珍しいこともあるもんだな」
ファリアとは、何度か戦場で共に戦った仲であり、今は亡き、彼女の夫、アーサーともよく話をしたものだった。
どちらが夫で、どちらが妻か、というくらいに逆転している夫婦だったが、とても気のいい二人だったのを思い出す。アーサーが亡くなって、すでに10年以上経っているであろうか。
「なになに……へぇ、あいつらの娘も、もうそんな年になってたか……な、なんだっ!?」
間髪入れず、伝達の魔法陣による手紙が、ポンポンと届きだした。
――何枚、送りつけてんだ!? あいつめ!
そう思いながら、慌ててギルドの中にある一室を借り受けた。そうしないと、手紙が手元から落ちそうだったのだ。
ファリア達の娘とは、まだ幼い頃、3、4歳くらいだろうか、その頃に一度だけ会っただけだ。アーサーによく似た、可愛らしい女の子だったのは覚えている。
その頃にはすでにアーサーは亡くなっていたが、ゴードン辺境伯が馬鹿可愛がりしていて、ファリアと共に呆れたのを覚えている。
手紙を読み解くに、その娘が王都にいて、明日、王太子との婚約披露のはずだったのが、その馬鹿王太子が浮気したのに激怒して、王都を飛び出した、ということでいいだろうか。
「なんつぅか、潔癖症なお嬢さんになっちまったねぇ……あのファリアの娘が」
ファリア自身はアーサーと出会うまでに、奔放とまでは言わなくても、恋人の一人や二人、いたような記憶がある。連れ歩いていた従者は、なかなかな美形揃いだった。そんなファリアがアーサーと出会ってからは、戦場以外では貞淑な妻になっていたのを思い出す。
鬼神のような戦いぶりの彼女しか知らない者からしてみれば、想像もつかないだろう。
俺はニヤニヤ笑いを浮かべながら、手紙をアイテムボックスに仕舞い込み、さっさとギルドを出ていった。
* * *
ファリアの娘、メイリン・フォン・ゴードンに追いついたのは、偶然だった。
見るからに貴族のご令嬢で、女の護衛を一人しかつれていない、という危なっかしい様子。何より、アーサーそっくりの金髪に整った顔立ちに、俺の方が驚いた。もう、こいつがメイリンだろうと、想像がつく。
14歳と聞いてはいたが、その年頃の人族の女にしては、少し背が高いかもしれない。護衛の女はもっとデカいが。
困っているようだったので、助けてやろうとしたら逃げようとするから、抱え上げた。
その時、魅惑的で身体がゾワリとするような匂いが、彼女の身体からした気がした。
結局、人攫い扱いされたものだから、俺の方が逃げる羽目になったが、彼女の匂いはもう覚えた。
そして、このゾワリとするモノの正体も、なんとなく予想がついている。幼子の時には、感じ取れなかったが。
――あれは、俺の番になる者の匂いだ。
「逃がさねぇよ」
俺はニヤリと笑いながら、彼女たちが無事に宿屋に入っていく後姿を見つめるのであった。
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