第25話
大きくため息をついてから、前を歩き出したヘリウス様に声をかける。
「ヘリウス様」
「ん? なんだ」
振り向いたヘリウス様の顔は、いたって普通。これで鼻の下でも伸ばしてたら、はり倒すくらいの気持ちでいた私は、仕事モードに徹するように、自分の心を叱咤する。
「彼らの紹介は」
「ああ、忘れてた」
簡単に忘れないでよ。
私の呆れた顔に、ヘリウス様は、アハハ、と笑って誤魔化す。私は合流した彼らに向かって声をかけた。
「私は、メイ、彼女は護衛のキャサリンです。これから、よろしく」
人間の男たちは私の声に一瞬慌てたけれど、先程までのだらけた雰囲気が一変し、サッと片膝をついて頭を下げた。
私が貴族というのがバレた? 自分の振る舞いがいけなかっただろうか? マントを羽織っているから、中の格好まではわからないとは思うけど。
というか、そもそも、ヘリウス様、彼らに私の情報をどこまで渡してたりするんだろうか。少し不安になる。
それにしても、自然に礼をとることが出来るということは、彼らは貴族の元にいたことがあるのだろうか? 弓を背負った男などはチャラそうに見えたけど、あれはまた違う面ということなんだろうか。
「お初にお目にかかります。Bランク、弓使いのハイドと申します」
「……Aランク、魔術師、ローでございます」
「よろしく頼みます」
そして猫女へと目を向ける。相変わらず、敵対心ありまくりで睨んでくる。こっちは依頼者なんだけど、って私は思うんですけどね。
立ち上がったハイドが、猫女を睨みながら、注意する。
「パティ、挨拶しろ」
「……ふん」
「パティ」
ハイドには無反応だったくせに、ヘリウス様が窘めるように名前を呼ぶと、猫耳をへにょりと伏せて、ちろりとヘリウス様へ目を向ける。へにょりとしている耳は可愛い。すごい可愛い。しかも、あざとい。
しかし、甘えたような姿にも、ヘリウス様は負けなかったようだ。顎で『やれ』と促している。猫女は舌打ちを打つと、私の方へと顔を向けた……視線はそらされてるけど。
「……パティ。斥候」
「……よろしく」
私の声を聞くまでもなく、彼女は名乗るだけ名乗ると、ヘリウス様の背後にへばりつきにいった。これで、私の護衛なんて頼んでも大丈夫なのか、今さらながらに不安になった。
「メイ様、大丈夫です。仕事はちゃんとやりますので」
申し訳なさそうに、そう話しかけてきたのは魔術師のロー。それは今までの経験で、ということなんだろうか。今の様子からは、残念ながら、まったく信憑性がないんだけど。
「ローさん、申し訳ないけど、口ではなんとでも言えます。彼女の実力が伴わなかった場合、解雇します。いいですね、ヘリウス様」
「なんだよ、メイ、パティなら大丈夫だ」
「……いつまで、その自信が持ちますかしら」
身内に甘いようなら、彼らの助けなどなくても、なんとかするしかない。
最悪なことも考えなきゃいけないとは。うんざりしながら、私はキャサリンと目を合わせると、小さく頷きあった。
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