第24話

 朝早く、まだ空に星が見える時間に、私たちは宿を出た。

 私とキャサリンは馬で、ヘリウス様は徒歩。まさかの、徒歩だ。馬のペースに合わせて歩く姿に、獣人の凄さの一部を垣間見た気分だ。

 街の中はまだ眠りについているのか、あまり人の姿は見えない。それでも、早朝から動き出している人はいる。


「俺の仲間たちとは街を出たところで待ち合わせている」

「もうですか?」

「まぁな」


 母と連絡を取り合えるということは、ヘリウス様も伝達の魔法陣が使える、ということだ。仲間たちとも同様にやりとりができる、ということだろう。   

 獣人は肉体的に強いこともあり、魔法はあまり得意でないと聞いていたが、ヘリウス様はそうでもないみたい。自分が魔法陣が使えないことが、ちょっと悔しい。


 朝日が街の中に差し込んできた頃には、私たちは街の出口までやってきていた。

 衛兵たちは、出て行こうとする私たちの方へは目もくれない。こんな時間だ。入ってくる者もほとんどいないのに。私はチラリと彼らに目を向けるだけで、そのまま街を出ていく。


「出るのはこんなに簡単なのね……」

「まぁ、どこでもそうだろ」

「そうなの?」

「そんなもんだ」


 入るのも出るのも、必ずチェックする、というのが前世での記憶にあるものだから、それが当たり前だと思っていた。防衛に関する手抜き感に、それでいいんだろうか、と勝手ながら思ってしまう。


「あ、いたいた」


 街から離れて進むこと30分。ヘリウス様が声をあげた。その言葉につられて、前の方に目を向けると、草原の中、ぽかりと開いた草のない土地に、それぞれに馬をつれた3人組が立っている。


「よぉ。旨い仕事だっていうから、来てやったぜ」

「ハイド、口を慎め」


 最初に声をかけてきたのは、見るからに盗人っぽい感じで品がないように見える、大きな弓を背にした人間の男。それを窘めているのは、黒いローブを来た、まさにザ・魔術師という感じの同じく人間の男。そして、無言でこちらを睨みつけているのは、猫科の獣人の女。ビキニ? と思うほど、身体のラインを強調した、露出度高めの装備に、思わず顔を顰めそうになる。レースクィーンかよ、と内心、ツッコムのは、許してほしい。


「待たせたな」

「待ってないわ。ヘリウス」


 私に見せつけるようにへばりつく猫女(ええ、もう、最初っから感じ悪いから、これでいく)に、それを気にもしないヘリウス様。


「ウフフ、久しぶり」

「ああ、いい子にしてたか」


 長い尻尾をヘリウス様に絡みつけている様に、私もキャサリンもギョッとしてしまう。今度は、キャバ嬢かよ!? とツッコミたい。

 

 ――獣人同士のスキンシップって、そういうものなの?


 思わず、キャサリンと目を合わせて確認しあうも、お互いに知らない世界だけに、肩をすくめるしかない。人間の男たちに目を向けるけど、彼らも気にした様子もなく、それぞれに会話をしている。

 

 ――あれが普通ってことなんだろう。これから、あんなのをずっと見せつけられるの?


 思わず、遠い目になった。



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