第23話

 オイデス山。

 話でしか聞いたことはないけれど、トーレス王国で一番高い山で、隣国ウルトガ王国の王都に向かうには、一番の近道であるという。

 昔、ウルトガ王国と、今のような友好関係になる以前、我が国はこの山を攻略して攻め入ろうとしたことが何度もあったらしい。しかし、その度に失敗に終わったのは、ウルトガの強さだけではなく、山そのものが天然の要塞みたいなものだったからだろう。

 今でもかなり険しい山道で、また魔物が徘徊しているという話もあり、ほとんど整備などされていないはずだ。

 だからこそ、よっぽどのことがないかぎり、その道を行く者はいない、と聞いたことがある。


 ――まぁ、今の私たちの状況でいえば、まさに『よっぽど』なんだけど。


 正直、ヘリウス様の言う方法は、可能性の一つとして私の頭にもあるにはあった。しかし、あくまで可能性であり、私とキャサリンの実力的には実現不可能だと思っていた。

 でも、今、ヘリウス様がいるというだけで、可能性の灯りがポツリと灯った気にもなってくる。


「しかし、我々では無理があるのでは」

「そりゃぁ、そうだ。お前さんたちだけだったら、無理だろうなぁ」


 キャサリンの指摘に、呑気にそう答えるヘリウス様。背中を椅子の背に乗せ、大きく伸びをする。


「それじゃぁ」


 どうするんですか、と私が言いそうになったら、チッチッチ、と言いながら、ヘリウス様が人差し指を左右にふり、ニヤリと笑う。


「俺の仲間を呼んである」

「仲間、ですか」

「ああ。基本それぞれソロで動いてるんだがな。せっかくのファリア殿のご依頼だからな。豪勢にいかせてもらおうじゃないか」


 王族の、それもAランクの冒険者相手に、母はいくら出すつもりなんだろうか。

 お金は成功報酬ということなので、無事に私をゴードン辺境伯領まで送り届けないと、報酬がもらえないけれど、それにしたって。

 念のため、他のメンバーのことを聞いてみると、Aランクの魔術師、Bランクの弓使いと斥候だそうだ。なんか、どんどん報酬が上がる予感しかしないんだけど。


「あんまり吹っ掛けないで下さいね」


 一応、釘をさしておくものの、きっとこの人にはきかないだろう。

 へリウス様は、それには答えずに立ち上った。


「さぁて、まずは飯食って、しっかり睡眠をとったら、明日の早朝には出るぞ」

「仲間の方たちって」

「奴らとは待ち合わせ場所は決まってるんだ。そこで会えるさ」


 不安は拭えないものの、今はこの人に頼るしかない。


「よろしくお願いします」

「……ああ、任せろ」


 私が素直にそう言うと、ヘリウス様が悪人面でニヤリと笑った。

 残念ながら、私はより一層、不安になるだけだった。



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