第15話
ありがたいことに、さっき集まってきた住人の中にいたおばあさんが、私たちの会話に気付いて、声をかけてくれた。
なんでも町はずれに、おばあさんの姪夫婦がやっている小さな宿があるという。親切なことに、一緒に宿まで連れて行ってくれるというので、多少の不安を感じながらもついていくと、言葉通りにこじんまりとした宿屋があった。
「ちょっとだけ、おまけしといてあげてな」
去り際に姪っ子さんに声までかけてくれて、私たちは感謝の気持ちでいっぱいになった。
一泊の宿代の相場がいくらなのか知らないけれど、朝夕の食事もついていた。運のいいことに、キャサリンが執事のポールから預かってきたお金でなんとかなったようで、ホッとした。
案内された部屋は、けして広くはなかったが、私たち二人であれば十分だった。キャサリンは終始申し訳なさそうだったけれど、屋根があって雨風が防げて、その上ベッドがあれば御の字だ。
一度、クリーンで身体を綺麗にしてから、マジックボックスからコトスがくれた籠を取り出す。空腹では、頭もまともに働かない。残っていた食べ物を手にしながら、私たち二人は、今後について相談することにした。
まずは、私の身分証をなんとかしないといけない。毎回、町に入るたびにお金を払うとなると、我々の軍資金はあっという間に底をつくのが目に見えている。
「あの獣人は冒険者ギルドの身分証で入れたようですし、我々も冒険者ギルドに登録すれば、なんとかなるのではないでしょうか」
キャサリンの声に、なるほど、と思ったけれど。
「それって、誰でも登録できるものなの?」
資格試験みたいなものでもあるんだろうか、と不安になる。
「そうですね。よく子供の小遣い稼ぎにと登録している子がいるというのを聞いた覚えております」
私の耳には入ってきていないのは、私がかなりの箱入りだったということかしら。こういう時、一般常識の欠如っていうのは痛い。
「キャサリンは登録してないの?」
「はぁ……私も一応、貴族の端くれですので……」
「あら。もしかして、貴族は登録してはいけないの?」
「いえ、そんなことはございません。他国には、王族で有名な冒険者の方もいらっしゃいます。我が国にも、貴族で冒険者をなさる方もいらっしゃいますが……けして多くはないかと」
「そういうものなのね……」
むしろ、冒険者登録しておけば、貴族として思われないかもしれないってことかしら。
外はまだ日が高い。この町に冒険者ギルドがあるなら、ここで登録してしまってもいいかもしれない。
私たちは目を合わせると、小さく頷きあい、残り少ない食べ物を口の中に詰め込んだ。
お祖父様が見てたら、貴族令嬢として、はしたない、と叱られたかもしれないけどね。
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