第11話

 私は唖然としながら、その男性を見つめてしまった。

 だって、ケモミミよ、ケモミミ。いや、隣国が獣人の国っていうのは知ってた。知識としてはある。だけど、リアル獣人は初めてなのだ。


「……おい、大丈夫か?」


 おっと、心地よいイケボに正気に返る私。


「あ、はい、えと、だいっ丈夫です」

「お嬢様……」


 キャサリンが庇うように、私の前に出る。


「おいおい、そう尖るなよ。こんなところで何もしないって」


 そりゃそうよね。こんな人目の付くところでやらかしたら、すぐそこにいる衛兵に捕まる。私たちもついでにだろうけど。


「なんか困ってそうだったから声をかけたんだが」


 その言葉に、私も冷静になって相手を見る。

 長めの黒髪に浅黒い肌。端正な顔立ちになかなかのイケメンであるのは認めよう。綺麗なスカイブルーの目が印象的で、つい、ハスキー犬を連想してしまう。確かにケモミミついてるけど、それ以外で目につくのは、ふさふさした尻尾。立派な体格からして、冒険者か何かだろうか。


「あ、ありがとうございます。ちょっと、身分証がなくて、どうしようかと……」

「ん? 立派な格好してるから、お貴族様じゃないのかい?」

「いや、あの……」

「……お嬢様、これ以上は」


 キャサリンの言葉に、私も頷く。いつまでも、ここにいるわけにもいかない。私たちは列から外れようと、馬の手綱を引っ張ろうとした。


「俺が中に入れてやろうか」


 ケモミミイケメンが声をかけてきた。


「え、いえ、それは申し訳ないので」

「いいって、いいって」

「……お前、何が目的だ」


 キャサリンがピリピリしている。寝不足のせいもあるかもしれないけど。マズイって思う私は、彼を無視してその場を去ろうとする。キャサリンもケモミミイケメンに目をやりつつ、私の後についてこようとしたんだけど。


「お~い、衛兵さ~ん」


 まさか、ケモミミイケメンがのんきな声で衛兵を呼び始めた!?

 慌てて、シャイの手綱を放って男の方に駆け寄る。


「ちょ、ちょっと!? 貴方! えっ!?」


 うわっ!?

 あっという間にケモミミイケメンに腰を抱えられて、捕まってしまった。あ、足が浮いてるっ!?


「な? 俺に任せて見ろって」


 うぉいっ!

 耳元で囁かないでっ! 腰が砕けるっ! 

 あまりの好み過ぎる声に、顔が真っ赤になる。


「お嬢様っ!?」

「はいはい、そっちのキャサリンちゃん? も。だ~い丈夫、俺に任せとけばいいって、いいって」

「貴様っ!」

「ん~、女の子がそんな言葉使いしたら、駄目だぞ~」

「お、女の子だとっ!」


 あらら、キャサリンまで、顔を赤らめている。いかん、このままじゃ彼の言う通りになる。思わず、下から見上げるようにギロッと睨みつける。


「あ、貴方を信じろと? その根拠は? 私は貴方を存じません。見も知らない相手のことをどう信じろというのです」

「ん~? そうだな……」


 抱えられながら、文句を言い募ろうとした時。


「どうした」


 ……ああ。衛兵が来ちゃったじゃないのよ。



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