第10話
私が干し肉を食べ終わる前に、キャサリンと母のやり取りは終わっていた。
結局、モンテス伯爵領の領都で待ち合わせることになったのだ。一応、冒険者ギルドを経由して、指名依頼という形にするらしい。相手の名前は、現地に行ってから教えてもらえるそうだ。
「まずは、モンテス伯爵領に向かわないことには、どうしようもないわけね」
身体の凝りを解すように、伸びをする。
久々に、というか、この身体では、ほぼ初めてに近いせいか、体中が筋肉痛になっている気がする。それに、このギンギンにまとめている髪型が、頭を重くしてる。
髪を下してみると、あんなにカッチリとまとめていたというのに、掌にサラリと金色の髪が落ちてきた。癖一つないストレートの金髪を、再び、キュッと縛り上げてポニーテールにする。この世界にゴムがないのが、非情に残念。キャサリンが、細い紐で縛るのを手伝ってくれた
身支を整えた私はパンパンッとズボンのお尻を叩いてから、思い出したようにクリーンの魔法をかける。
「お、お嬢様、クリーンの魔法をご存じでしたか」
「思い出したのよ。昔、お母様に教えていただいたのを」
「なるほど。さすがファリア様ですね」
「……そうね」
うん、嘘ではない。私の記憶が戻ったこともきっかけではある。たぶん、前のメイリンでは思いつきもしなかったかもしれない。何せ、自分に魔法が使えることすら、覚えていなかったのだから。
どうして忘れていたのか。なぜかわからないけれど、王都の学校にいる間、なんの疑問も持っていなかったあたり、その前後に何かがあったのかもしれない。
私たちは馬に乗ると、速足で次の町へ向かう。昼間はこの格好は目だって仕方がないのだが、あの小さな村の雑貨屋には、私が着られるようなコートが売っていなかったのだ。
早い所、色々と買い物が出来る場所に向かわないといけない。徹夜明けのキャサリンのことを考えると、余計に急がなければ、と思って気持ちが焦る。
村を出て二時間ほど経った頃。
「お嬢様!」
「ええ、見えて来たわね」
キャサリンの声に、笑顔になる私。先程の村よりも、だいぶマシな規模の町が見えてきた。しかし、その喜びもつかの間。
「お嬢様……衛兵がおります。身分証を提示しないと、入れないかもしれません」
「なんですって」
よく見れば、人々が列に並んで入って行っている。ゆっくりと馬を進めながら、列の最後尾につくと、馬から降りた。
「キャサリン、どうしましょう……」
身分証などと言う物を今まで必要としてこなかったせいで、考えもしていなかった。
キャサリン自身はどうなのか、と思えば、一応、ゴードン辺境伯に仕える騎士としての身分証があるらしいのだが、ここでそれを使ってしまうと、足がつく。
「参ったわね」
ゆっくりと列は進んでいくのに、私たちは解決策が浮かばない。今さら、引き返すのも、疑惑を持たれて追いかけてきそう。
「お困りかい?」
「えっ!?」
結論がでないでいる私たちに、背後から大きな背の男性が声をかけてきた。ハスキーなその声に、お、いい声、なんて内心思う。顔には出さないけど。
「え、あ、いえ……えっ!?」
振り向いて見上げた相手は、『オーガ伯』と呼ばれるお祖父様よりもずいぶんと大柄で……なんと頭の上にケモミミを付けていた。
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