第9話
目が覚めると、すっかり日が昇っていて、飛び起きた。
「あ、お目覚めですか」
「キャサリン! なぜ起こさなかったのです!」
「お疲れのようでしたので」
そう言ってキャサリンは拳大の固そうなパンと、干し肉を差し出してきた。
「これは?」
「村の者に分けてもらいました」
「ああ、それは申し訳ないことをしました……お金のほうは」
「大丈夫です。ちゃんと渡しております」
ふと、村の者たちの視線を感じ、目を向けるとドアの隙間や、遠くからこちらを見ているようだ。私はキャサリンから食事を受け取ると、村人たちに掲げて見せてから、小さく頭を下げた。
「お嬢様、あの者たちに頭を下げるなど」
「いいのよ。今の私たちは、ただの旅人。施しを受ける側なの。ちゃんと感謝を示さねば」
「……はっ」
私たちは木の下で座りながら食事をを取りつつ、キャサリンが集めてきた情報を確認する。
この村は名前もないような小さな村らしく、地図にも載っていないらしい。
ただ、王都の位置から考えると北にある村らしい。このまま北上していくと、獣人の国、ウルトガ王国に向かうことになる。
お祖父様が治める辺境伯領は西側、ナディス王国と接しているところ。未だに小競り合いが続く国だ。獣人の国を経由して、というわけにはいかない。
「ウルトガ王国に行く手前には、モンテス伯爵領があったはず。そこの領都から西側へ向かう街道があるわよね」
「はっ。しかし、途中、山越えや魔の森もございます。私たち二人だけでは厳しいかと」
「そうよね……では、護衛を雇いましょうか」
「しかし、今は、金銭的に余力が……」
「うーん、どうしましょうね」
二人で悩んでいると、突如、キャサリンの目の前に青い鳥が飛んできた。
その鳥はキャサリンの肩先に止まると、ピピピッと鳴いて、ポトリとキャサリンの掌に何かを落とすと、スーッと消えて行った。それは小さな手紙のようだった。
「キャサリン?! これはっ」
「ああ、伝達の魔法陣です。お嬢様は、学校ではお習いになられませんでしたか」
「もしかして、魔術の教科でかしら……私、貴婦人クラスでは、魔法の授業を取らせてもらえなかったのよ。今思えば、なんで取らせて貰えなかったのか、不思議なんだけど」
「……普通、学校に入ったら、全員取るはずなんですけどね」
「……えぇぇぇ」
こんな便利な魔法を教えてもらえないなんて……なんか、悪意を感じるのは私だけかしら。
「これは、ファリア様からですね……ん? 現在位置を知らせろ、とのことです。護衛の者を手配して迎えに来てくださるそうです」
「まぁ、お母様、さすがね……この伝達の魔法陣? どれくらいで伝わるのかしら」
「送ってすぐです。送るだけであれば、それほど魔力も使いませんし」
「わかったわ。とにかく、現在位置を知らせてちょうだい」
「かしこまりました」
真剣な顔で手紙を書き始めたキャサリン。それなのに私は、固い干し肉を手で弄びながら、どうやったら噛み切れるのだろうかと悩んでいた。
ごめんね、キャサリン。
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