第12話

 どうしよう、と血の気が引いている私をよそに、ケモミミイケメンは衛兵ににこやかに手をあげる。


「よぉ、すまん、すまん。ちょっと、うちのと揉めちまってな」

「う、うちのっ!?……むぐむぐ」


 文句を言おうとしたら、大きな掌が私の顔の半分以上を覆ってしまう。ちょっと、苦しいんだけど!

 キャサリンはキャサリンで、私の状況にあわあわしてる。下手に動くとマズイって彼女もわかってるのかもしれない。


「あれ? もしかして……冒険者のヘリウス様では?」

「ん? 俺のことを知ってるのか?」

「は、はいっ!」


 近寄ってきた衛兵は、まだ十代の後半くらいの若者のようで、目をキラキラさせながら大柄なケモミミイケメン……ヘリウスと呼ばれた男を見上げている。

 この国で獣人というだけでも目立つには目立つけれど、話の様子だと、それ以上に彼は有名な冒険者のようだ。私たちの前後にいた者たちも、その名前を聞いて、こそこそと話をしている。

 そのヘリウスは若者にちょいちょいと手招きすると、若者は素直に耳を傾けるために、より近寄ってくる。ヘリウスは声を小さくして、内緒話のように話し出す。


「ちょいと、このお嬢さんの護衛の仕事を頼まれてな。お転婆娘で困ってたところなんだよ」

「ああ、なるほど」


 ちょっと。なんで残念そうな顔で私を見るのよ。

 お転婆って……これでも深窓の令嬢扱いされてきたのに……確かに、今の私にはそんな欠片もないけれど。


「身分のある方なんだが、できるだけ内密に入りたいんだ。庶民として入るだけだったら、銀貨三枚で大丈夫だったよな」

「はい。身分証がない場合、その金額になります」

「おう、わかった。ほれ、さっさと戻れ。先輩が怖そうな顔でこっち見てるぞ」

「あっ、はいっ! 失礼します」


 途中からジタバタするのをやめて彼らの話を聞いていた私。身分証がなくてもお金を払えば入れることを初めて知った。キャサリンもそれを知らなかったのか、少し驚いた顔をしている。騎士団育ちとはいえ、男爵家の三女のキャサリン。貴族としてしか、こういった門を通ったことがなかったのだろう。気にかけなければ、知ることもなかったに違いない。


「ほれ。これで中に入れるぞ」


 ヘリウスはゆっくりと私を地面に降ろしてから、ニヤリと笑いながら、そう言った。

 なんだか悔しいが、助かったことは素直に感謝すべきだろう。


「……ええ。ありがとうございます」

「……ほぉ」


 私の感謝の言葉が意外だったのか、目を見開いて私を見下ろす。


「では、私たちはお先に」

「まてまて、一応、護衛って話をしてるんだ。一緒にいくぞ」


 キャサリンとともに前に進んでしまった列に並びに行こうとすると、ヘリウスが追いかけてきた。キャサリンが舌打ちしたのが聞こえたが、私もしたかったので敢えて注意はしなかった。


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