特別編①「ちょっと遅いハロウィーン」

※ハロウィーンネタやりたかっただけで、内容的に時期はあまり関係ないです。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「紗奈、今日は荷物多くないか?持つよ」


「ふふっ、ありがとう」



紗奈と付き合いはじめてから数週間。

週末は紗奈と過ごすのが定着してきていて、今日は両親が出掛ける事を知った紗奈が家に来たがった。


俺は紗奈が持って来た大き目の紙袋を預かり、中を覗こうとしたが……



「あっ!まだ見ちゃダメっ!!」


「……わかった」



なんとなく時期と持った感覚で、紗奈が何を持って来たのかは察している。

そうなるとかなり中身が気になったが、俺は後の楽しみにしようとこらえた。









「ほらっ、どうぞ」


「ありがとう」



紗奈が家に来て、リビングで紅茶を出す。

俺の家族はコーヒー派で紗奈は紅茶派なので、すでに家には紗奈用の紅茶があったりする。


両親と紗奈はまだ会ったことがないが、それがきっかけで彼女が出来た事はバレた。

まぁ、会える日を楽しみにしている様子だったので、好意的に迎えてくれるだろう。



俺達はソファで並んで座りお互いの飲み物に口を付け、一息ついた。



「……だいぶ寒くなってきたよね」



そう言って、紗奈が俺の肩に頭を乗せる。

並んで座った時はこうやって甘えるのが気に入っているようなので、たぶん季節や気温は関係ない。


もちろん、それを指摘して離れたりしないが。



「そうだな。中でも寒いか?」


「……うーん、こうしてれば平気かな」



紗奈がそう言って、横から抱きついて来る。

まだ暖房を入れるほどの寒さではないし、単純に甘えたいのだろう。


そんな紗奈の頭を撫でてやると、紗奈は心地良さそうに目を細めた。



「……眠いのか?」


「ううん……、大丈夫。あっ、でも今日はおはようのキスがまだだった気がする」



もちろん毎日そんなキスをしているわけではないので、ただの紗奈のおねだりだとわかった。


俺は黙って紗奈に口付ける。

触れるだけの短いものだったが、すんなりされると思っていなかったのか、紗奈が大きく目を開いた。



「目、覚めただろ」


「……翔太くん、あんまり恥ずかしがらないよね」



顔を赤くした紗奈が不満そうに俺を見上げる。

そんな紗奈に苦笑して言った。



「紗奈が毎回、恥ずかしがるからだ。ほら、自分より緊張してる人がいたら落ち着くとか、そういう感じなだけで。俺だって緊張してるし、ちょっと恥ずかしいとは思ってるよ」



「でも……」



紗奈は少し俯いて、不安そうに瞳を揺らす。



「なんだ?」


「……すぐに、飽きちゃわない?」


「……」



飽きる、か……。

マンネリ化したカップルがあっさり別れたという話を聞かない訳ではないし、紗奈の気持ちはわからないでもない。


けど……。



「飽きるっていう感情が、今は全然想像がつかないな。……だから、どうしたら俺がずっと紗奈を好きでいることを信じてくれる?」



「……」



今度は紗奈が何かを考える素振そぶりをしてから、おずおずと俺の首に腕を回した。



「……好きって、言って。言葉にしてくれたら、やっぱり安心するから」


「紗奈、好きだ」



俺が言われた通りにそう伝えると、紗奈はクスッと笑った。



「ダメだね、どうしても言わしてる感じになっちゃう」


「そうだな」



同じ事を思った俺も、笑った。



「それじゃあ『好き』とか……その、『可愛い』とか思ってくれたら、隠さないで教えて?」



俺はまた、紗奈のその言葉に頭を悩ませる。



「……そんなの、ずっと言い続ける事になるけど」


「えっ……ば、ばかっ!」



さらに顔を赤くした紗奈が、俺から離れて顔を隠すように反対側へ寝っ転がった。

俺はそれを追いかけて、紗奈に覆い被さる。




「……紗奈、可愛い」


「ちょっと、待って……」



耳元で囁くと、紗奈は恥じらいながら耳を塞いだ。

その仕草も、たまらなく可愛くて笑みが浮かぶ。



「紗奈、好きだ」


「うぅ……」



紗奈には聞こえているようで、悶えているのか小さく身動いだ。



「翔太くん……、幸せすぎておかしくなっちゃうから……」



チラッとこっちを窺うように目線を上げた紗奈は、困ったように眉尻を下げて瞳を潤ませていた。

そんな紗奈にもう一度、キスをする。



「んっ……」



まだ深い口付けはしていないし、そこまで行くと止まれる自信がない。


……というか、俺も結構いっぱいいっぱいだったりする。

本当に紗奈が思いっきり恥ずかしがるので、もっとそういう表情が見たくなってしまうだけなのだ。




「……翔太くん」



唇を離すと、まだ紗奈は潤んだ瞳を向けて来た。

これはたぶん、恥ずかしさがもう限界って感じだろう。




「……紗奈は、意外と責められるの弱いよな」


「……ちっ、違うもんっ!翔太くんの意地悪っ!」



丸くなって拗ねてしまった紗奈の頭を撫でるが、顔を上げてくれない。

俺はしばらく声を掛けても反応してくれないし、撫でるのを止めようとすると手を掴んで自分の頭に持ってくる紗奈を撫で続けながら、やり過ぎたとちょっとだけ反省した。











今日の紗奈の料理はグラタンだった。

俺のブロッコリーはアリ、ほうれん草はナシなどの好みを完璧に把握して作られたそれは、とても美味しかった。



「紗奈、料理上手くなったよな。……いや、最初っから美味かったけど」


「ふふっ、ありがとう。翔太くんは私が練習してるのを褒めてくれてるんだよね?嬉しい」


「あぁ……」



紗奈の機嫌はグラタンを食べる俺を見ている内に、勝手に直った。

……なんというか紗奈は俺に向ける視線だけで、充分好意が伝わって来るので卑怯だと思う。



「洗い物は俺がするよ。流しに置いといてくれ」


「あっ……。うん、お願いしてもいい?」


「?あぁ」



いつもなら片付けまで一緒にやりたがる紗奈が、アッサリ俺に任せた事にちょっとだけ不思議に思ったが特に不満もないので頷く。

すると紗奈は早々に席を立って言った。



「……その間、別の部屋借りてもいいかな?」


「……そうか、いいぞ」



俺は紗奈が持って来ていたモノを思い出した。



「風呂場でいいか?それか、俺の部屋でもいいけど」


「翔太くんのお部屋がいい!」



そう言えば紗奈は家には何度か来ているが、俺の部屋に入った事はなかったか。

そんなに目を輝かせるようなモノは無いんだが……。



「わかった、二階だから先に案内する」


「うん!」



テーマパークに向かう子供のようにワクワクしている様子を抑えられていない紗奈に苦笑しながら、俺は紗奈を自分の部屋へと連れて行った。











「それじゃ、洗い物してくるから」


「うん、ごめんね?」



『気にするな』という風に手を振って、翔太くんが出て行く。

扉が閉まって1人になると、私はクルッと部屋の中を見回した。



(ここが、翔太くんのお部屋……)



勉強机、本棚、小さめのテーブルに、ベット。

リビングとはまた違い、ここで勉強したり、本を読んだり、眠ったり……好きな人が生活しているシーンが目に浮かんで、胸がキュンと締め付けられる。



その中でも……



私はフラフラと引き寄せられるようにベットへと座った。

布団の手触りを確かめるように、手で撫でる。


そのまま、ポフンと布団の上に寝っ転がった。



(早く、着替えないと……)



翔太くんは洗い物を終えたら、上がって来るかもしれない。

リビングで待っていてくれたとしても、そんなに長い間待たせたくない。



そう思うのに、この布団で無防備に眠る翔太くんを想像すると離れにくくなってしまう。




(……翔太くんの匂いがする)



より彼を感じられる場所へと、いざなわれる。

その先は枕で、私はそれに顔を埋めて大きく息を吸い込んだ。



(……翔太くん)



肺の中まで彼で満たされる感覚に、ゾクゾク背筋が震える。

興奮を抑えられないのに、どこか安心するその匂いは麻薬のようにすら思えた。



(……)



思考が止まって、そのまま動けない。

眠ってしまいそうなのに、それも勿体無くて出来ない。




結局私が枕から顔を離せたのは、上がって来た翔太くんがコンコンッと扉をノックする音が聞こえてからだった。










「紗奈、まだ掛かりそうか?」


「う、うん!すぐだから、もう少し待ってて!」



俺が紗奈を部屋に置いてすぐに洗い物を済ませ、待ち切れずにほとんどそのまま上がって来てしまったとはいえ、慌てたような返事をした紗奈に違和感を覚える。



(……随分、時間掛かってるな)



まぁ、着慣れていない服ならそんなものかと思うのと、俺が思っているより時間が経っていないのかもしれない。

早く可愛い紗奈が見たいと逸る気持ちを抑え、俺はそのまま部屋の前で紗奈が扉を開けるのを待った。




「……お待たせ、開けていいよ」


「あぁ」



紗奈が扉越しにそう言って、部屋の中でパタパタと動いている音が聞こえる。

俺は紗奈から招き入れられなかった事を少し残念に思いながら、扉を開けた。




「……何してるんだ?」


「……」



部屋に入ると、紗奈は俺のベットで布団をすっぽり被ってしまっていた。

許可を出した後、慌ててそこに入ったのだろう。


俺はテーブルに綺麗に畳んで置かれているさっきまで紗奈が着ていた服に少しだけ視線を向けながらも、ベットに近づいて紗奈に問いかける。



「……まだだったか?」


「……ううん」



紗奈が布団の中で首を振ったのか、団子状態の布団が揺れる。


俺は了承は得たと判断して、一気に布団をめくった。





「えっ……!?」


「おぉ……」




驚いた紗奈が、目を丸くして俺を見つめる。

対して俺は思わず感嘆の声を漏らした。



(……可愛い)



紗奈はフリフリのメイド服を着ていて、頭には猫耳とフリルが付いたカチューシャをしている。



そんな紗奈がパチッと目を瞬かせる様子は、子猫を連想させて猛烈に愛らしかった。




「きゃあっ!心の準備がまだなのに……」



時間が止まったかのように見つめ合う中、先に動きはじめたのは紗奈の方で、俺から布団を奪い返そうと前のめりになる。

俺は反射的に布団をベットから放り投げると、紗奈の進行を遮るように腰を下ろして、紗奈を抱き留めた。



「しょ、翔太くん!?ちょっとだけ待って……」



受け止められた紗奈はもがくように身をよじったが、当然俺が離すはずがない。


そのまま、なだめるように背中を撫でて囁く。



「……ダメだ、待てない」


「〜〜っ!?」



紗奈が羞恥からか、声にならない叫びを上げる。

俺はそれに笑って、今度は頭を撫でた。



「すごく、よく似合ってる。俺の為に準備してくれたのか?」



わかりきった事を聞いたとは思うが、紗奈の口から言って欲しかった。

紗奈は表情を隠すためか、観念したように俺の胸に顔を埋めて呟く。



「……そうだよ。翔太くん以外に、見せたい人なんていないもん」


「そうか、ありがとう」



拗ねた感じでいじらしい事を言う紗奈が愛しくて、頭を撫で続ける。

紗奈も諦めがついてきたのか力を抜いて、俺に身をゆだねた。




「……本当に可愛い」


「……ありがとう」


「ずっと見てたい」


「もうっ……」



褒め続ける俺に、紗奈は頬が緩むのを隠し切れていない表情で顔を上げた。





「……トリックオアトリート」


「ん?」



俺が首を傾げると、紗奈は顔を赤くしたまましてやったりという感じで笑った。



「お菓子をくれないと、……悪戯しちゃうよ?」


「あぁ、……そうだったな。ほら、これ」



俺はそんな紗奈に、チョコレートを1つ取り出して渡した。



「……」



それを紗奈は、なんとも言えない表情で受け取る。

こんな紗奈の表情も見れるなら、さっき洗い物をした時に持って来ておいてよかったとほくそ笑む。





「……それじゃあ、俺も。トリックオアトリート」


「えっ!?」



俺からの仕返しに、紗奈が慌てた様子を見せる。



「ハロウィーンだから、コスプレしてくれたんだろ?……せっかくだし悪戯させてもらおうか」



自分でも、悪い顔をしているのがわかる。

紗奈はそんな俺に、表情を引き攣らせて言った。



「……このチョコレートとか」


「それは俺があげたヤツだろ。もちろん、ダメだ」


「ちょっと待ってくれたら、下に置いて来た鞄に飴が入ってるの……」


「俺が待つとでも?」



にじり寄る俺に、紗奈は怖いのか嬉しいのかよくわからない表情で抵抗した。



「ま、待って!お願い、少しだけ……!」


「いや、もう時間切れだ」



そう言って、俺は紗奈を捕まえると脇腹をくすぐった。




「あははははっ!まっ、待って!本当にダメ!」


「お菓子をくれなかったのが悪い。観念しろ」



「あはははっ!も、もう、苦しいよぉ」



そのあと、俺はグッタリするまで紗奈をこそばし続けたせいで機嫌を損ね、またやり過ぎたと反省することになる。

……暴れて頬を紅潮させて息を切らせた紗奈の、乱れた衣服やチラリと覗いた下着に少し興奮したのは黙っておいた。

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