魔法使いの縫い針
北原小五
第1話 あるいは魔法の始まり
「ディズニープリンセスで誰が一番好き?」そんな質問は、私にはウケなかった。かわりに、「ディズニープリンセスのドレス、どれが一番好き?」それがウケた。
「えっとね、ベルの黄色のドレスも好きだし、シンデレラのドレスも好き! でもね、でもね、一番はエルサかな。うーんでも……」
迷う幼い私に対して、母はくつくつとよく笑った。
「エマは本当にドレスが好きなのね」
「うん! ママが着てるドレスも好きだよ」
そういって幼い私は、壁に飾られている美しい女性が着ているドレスを指さす。
母は有名な女優で、たった一人で私を育てた。壁に飾られているのはそんな母の華やかな笑顔の写真だ。私はもちろん母が大好きだったけれど、その衣装にも注目していた。黒いフリルのエレガントなドレスやベージュ色の可愛らしいVネックのドレス。どの衣装も私のお気に入りだ。
「ドレスには不思議な力があるのよ」
母は長い人差し指を口に当て、私に世界の大いなる秘密を教えてくれた。
「着る人に魔法をかけてくれるの」
「魔法?」
きっとその瞬間、私の夢は決まった。
人に魔法をかける、魔法使い(デザイナー)になることだ。
時は過ぎ去り、私──エマ・フォードは二十三歳になりオートクチュールのデザイン事務所で働き出していた。
椅子に座った人々が、鉛筆でがりがりとデザイン画を描き、そうかと思えば立ち上がり、トルソーに布を当て真剣な顔でにらめっこを始める。エマはまだ勤めて五年目で主な仕事は先輩デザイナーのアシスタントだ。今日も先輩の愚痴に相づちを打ち、雑用をこなすのかと思うと少しばかり頭が痛い。だが、これもいつか大きな仕事を回してもらうためだ。
「フォードさん、少し良いかしら?」
事務所の所長が、エマを手招きする。所長のデスクまで行くと、彼女は嬉しそうにとある有名セレブの写真を見せた。コゼット・トンプソンだ。
「この方、知ってる?」
「もちろんです。シャネルの広告塔もやってますよね」
「そうなのよ! なんとコゼット・トンプソンからうちに依頼が来たの! 来月の国際映画祭で着るドレスを作ってほしいんですって!」
所長は今にも飛び上がりそうなほど狂喜乱舞していた。エマが勤めているこの会社は老舗のハイブランドではあるが、昨今のヴォーグに載るようなことはなかった。突然やってきたチャンスに所長は目の色を変えている。
「このドレス、あなたに作ってほしいの」
「私ですか?」
思わず大きな声が出てしまう。認めたくはないけれど、エマよりもデザインがうまい人ならこの事務所にもたくさんいる。けれど、ついに自分の才能が認められたのだろうかとエマは期待してしまう。しかしその期待はすぐに裏切られる羽目になった。
「あのリダ・フォードの娘が作るドレスよ! ヴォーグも喜んで飛びつくに違いないわ」
飛び出てきたのはやはり母の名前だった。結局、エマがデザイナーに選ばれたのはエマ自身の力ではなく母親の七光りだったというわけだ。
「…………」
「そんな顔しないでよ。チャンスがあるだけありがたく思いなさい」
それは確かにその通りだ。このチャンスを生かせば、私の才能が認められるかもしれない。エマはそう前向きに考えた。
コゼット・トンプソンは大手化粧品会社の娘で、現在はIT企業の社長と結婚している。彼女の家は当然、高級住宅街の中のそのまた一等地に立てられていた。門扉からは邸宅が見えないほどの巨大な庭が広がり、車に乗っているエマは圧倒される。
「ドレスの草案はちゃんと持った?」
助手席に座る所長が訪ねる。エマは緊張した面持ちで頷いた。車から降りて、大きな家の樫の木でできた扉を見上げる。ブザーを鳴らすと家政婦が出てきて、コゼットの部屋へと案内された。
ふんわりとしたシアー素材のカーテンが風でなびく。高級な家具で埋め尽くされているが、嫌みのない洒落た部屋のソファに、コゼットはいた。
銀色の長髪に、灰色の瞳。年齢は三十歳。モデルのような細い腰に、すらりと伸びた手足はまるで作り物のようだ。
「あなたがリダ・フォードの娘?」
彼女は笑わず、気難しそうな顔をした。
「はい。エマといいます」
「地味ね」
まさかそんな失礼なことをいきなり言われるとは思わず、エマは引きつった作り笑いを浮かべる。
「よく言われます……」
「でしょうね。デザインの腕はどうなのかしら?」
すかさず所長が愛想笑いの最たるものを浮かべながら、一週間ほとんど寝ずにエマが考えた十種類のドレスのデザイン画を見せる。
「……」
コゼットは一瞬チラリと紙を見ると、一枚一枚、床に落とした。はらはらと枯れ葉のように紙が落ちていく。
「全部、ボツ」
あっさりとそう言い切る彼女は心からつまらないという顔をしていた。
「ぜ、全部ですか?」
「どれも最悪だわ。流行を追いかけただけのくだらないドレス。明日までに別の案を見せてちょうだい。さもなければ、別のブランドにドレスを頼むわ」
もう帰れとでもいうように、コゼットは紅茶を飲む。本当にこれ以上何も話すつもりがないらしい。エマは怒りとあきれで口をぱくぱくと数度動かす。
全部、ボツ? 一瞬しか見てないじゃない!
そう言い返してやりたかったが、相手は大切なお客様だ。グッとこらえて、とぼとぼと所長と二人、駐車場に止めた車へと戻る。車へ乗り込み、所長は暗い顔で口を開いた。
「さすがわ氷の女。一筋縄ではいかないわね」
「氷の女?」
「コゼットのあだ名よ。大好きなリダの娘のデザインなら二つ返事でオーケーを出すと思ったのに」
「もしかして、私をデザイナーから外すつもりですか?」
「だってすべてボツだったじゃない。明日までに新作を考えるなんて無理でしょう?」
それは困る。やっと手にした大きなチャンスなのだ。
「私にやらせてください! 明日までに別の案を考えてきます。絶対にコゼットさんを納得させてみせます!」
所長はこちらを疑うような目で見るが、やがて折れて頷いた。
「ただいま……」
エマはふらふらとした足取りで自宅のアパルトマンへと戻った。
「おかえりなさい」
迎えに来てくれたのは恋人のユーリだった。黒い髪に緑色の瞳のハンサムな男性。とても穏やかな性格で、エマにはもったいない優しい恋人だ。
「ごはん、できてるよ」
「ありがとう」
ユーリが作ってくれたのは和食だった。ユーリは和洋折衷の料理店でシェフをしているのだ。
「今日は何だが元気がないね」
心配そうにユーリが言うので、エマは今日あったこと、特にコゼットの冷たい瞳について話をした。
「すごいことじゃないか」
「それはそうなんだけど。私、うまくできるかな」
ドレスの案は一応は浮かんでいる。問題はコゼットが首を縦に振るかだ。
「僕がボスによく言われるのは、お客様を観察しろってことかな」
「観察?」
「その人が何を求めているのか。何をしたいのかを考えるのさ。お店の音楽をかけるときも、お客さんの顔色を見て変えたりしている。じっくりと観察するのが成功の鍵だって、ボスは言ってる」
「観察かあ……」
コゼット・トンプソン。彼女が求めるドレスとはいったいどんなものなのだろうか。
翌日、コゼットはドレスのデザイン画を持たずにトンプソン邸へ一人で向かった。
「デザイン画を持ってきていないの?」
コゼットが眉をつり上げ、不機嫌さを露わにする。
「私、まだコゼットさんのこと知らないんです。コゼットさんが必要としている、理想のドレスを作りたい。そのために、コゼットさんについてもっと知りたいんです!」
コゼットは驚いた顔をしたが、やがて迷惑そうに顔を歪めた。
「知りたいって言われても……。付き人でもやるって言うなら、構わないけれど」
「付き人で結構です! 傍に置いてください!」
あまりにエマが勢いよく答えるので、コゼットは豆鉄砲を食らったような表情をしていた。
「あなた有能?」
「記憶力なら自信があります! 車も運転できますし、絵も得意です!」
「そう。まあ、人数は多いに越したことはないか。いいわよ。おいてあげる」
「ありがとうございます!」
そうしてエマはコゼットの一日に密着した。
コゼットはセレブの中でも特別な美貌の持ち主だった。しかしその美貌はもちろん日々のトレーニングや食事制限からなる努力の賜物であり、天から舞い降りてきたギフトだけではない。
コゼットの情報をエマは隙あらばメモした。彼女は黒よりも赤色が好きなこと。利き手は右手。小食。甘い物が本当は好きだけれど、体形を気にして食べないように心がけていること。そしてなぜかたまに手が黒く汚れている。
そのメモの横に、ぽんと思い浮かんだドレスをささっと描く。それを清書してコゼットに見せたが、それもボツになった。
「明日までにデザイン画を見せろと言ったわよね?」
「はい……」
見せるには見せた。ただボツになってしまっただけだ。
「また明日、別のデザイン画を用意してちょうだい。さもなければ、あなたはクビ」
「……かしこまりました」
まだまだだ。まだまだ、私には観察力が足りない。
どれだけボツにされても、エマはめげなかった。
最高のドレスを作ってみせる。
ただその情熱だけを武器に。
情熱とは才能だ。けれど、ときにはその才能も涸れてしまうときがある。
七日間連続でボツを食らったエマは、疲労と眠気で一日中、頭に靄がかかったようにぼおっとしていた。映画祭まで時間がない。なんとしてもドレスを完成させなければ。
「ハニー、この頃の寝てないんじゃないかい?」
ユーリが不安げにこちらを見る。
「まあ、そうかも」
欠伸をかみ殺しながらエマは空返事をする。
「おいで」
そういうとユーリはエマの手を取り、本来は立ち入り禁止のアパルトマンの屋上へ向かった。そこには望遠鏡がぽつんと置かれている。
「これ、ユーリの?」
「ああ。たまには天体観測も良いだろう?」
「ふふっ。こういうのって懐かしい」
「綺麗な星を見れば、新しいドレスのインスピレーションがわくかも」
サンドイッチを部屋から持ってきて、二人でしばらく星を眺めた。するとエマのささくれだった落ち込んだ心も、幾ばくか回復を始めていた。
「そういえば今まで聞いたことがなかったけど、君はどうしてデザイナーになったんだい? 女優には憧れなかった?」
「私の身長じゃ無理よ。それに、お母さんが言ったの。『ドレスには不思議な力がある』って。それから私は魔法の虜」
「君は根本的に他人の笑顔を見るのが好きなんだろうね」
「そうかな?」
ユーリは緑の目を細めて微笑んだ。
「そうだよ。コゼットにも魔法をかけてあげるといい」
エマは苦笑した。
「あんなに綺麗でお金持ちの人、魔法なんて必要かな? なんでも持ってるじゃない」
エマの弱音を聞いても、ただユーリは優しく微笑むばかりだった。
「君ならできるよ、エマ。君は最高の魔法使いだ」
翌日もエマは早朝からトンプソン邸に向かい、コゼットのスケジュールを管理する。今日は雑誌の表紙の撮影と会社の夕食会がある。休む間もない分刻みの予定表を見て、つくづく自分がコゼットではなくてよかったと思う。
「遠くへ行きたいわ」
朝食を食べた後、ふとコゼットが言った。
「遠く? で、でも十一時から表紙の撮影ですよ」
「じゃあ近場でもいい。私があまり行ったことのないところへ連れて行って」
無茶ぶりだ。エマはそう叫びたくなる。
「あなた運転できるんでしょう?」
コゼットの冷たい瞳がこちらを射貫く。できませんとは今更言えない。仕方なくエマは初めてメルセデスベンツを運転し、コゼットを近隣の公園へと連れて行った。
「公園?」
「あなたが来たことないところなんて、こんなところくらいしか思いつかなくて……」
また叱られる。そう思ったが、コゼットは真顔のまま車から降りて、普通サイズの家が三軒ほど建つだろう広さの公園に入っていった。その三歩後ろをおずおずとエマもついて行く。プラタナスの木が生えていて、中央には小さいながらも澄んだ池がある。綺麗な花も咲いていて、エマのお気に入りの隠れスポットだ。
「うちの家の庭くらいしかない公園ね」
あざ笑うというよりは、事実を淡々とコゼットは述べていた。
「そうですね」
「あなた、フィリップ・ピアスの小説を読んだことはある?」
唐突な質問だったが、エマは反応できた。
「『トムは真夜中の庭で』の作者ですよね?」
フィリップ・ピアスは児童文学作家だ。エマは小さい頃に何冊か本を読んだことがある。
「ええ。あの物語に出てくる庭を思い出したわ」
コゼットの瞳が日光に当たったせいか、きらきらと輝いている。ふとそのとき、エマはコゼットの手が黒く汚れていることにまた気がついた。鉛筆を使うとき小指の付け根あたりが汚れる。ちょうどそこが黒ずんでいた。
「もしかして、コゼットさん、小説を書いているんですか?」
コゼットは驚いた顔でこちらを見る。数瞬驚いてから、黙る。彼女は否定しなかった。エマは微笑んだ。
「やっぱり。そうなんですね。その手の汚れは、原稿を書いているから!」
名探偵になった気分でエマが言う。コゼットは少し口ごもりながら答えた。
「ただの趣味よ」
「出版社に出してみましょうよ」
「無理よ。私の作品なんて」
「そんな風に卑下しちゃだめです。ね。出してみましょう」
エマはコゼットの好きなことを知れたことが嬉しくて、何度も何度も出版社に小説を出すように彼女を説得した。そうしてついにコゼットが折れた。
「まだ表紙の撮影まで時間があります。出版社に行きましょう!」
意気揚々と車を発進させ、一度邸宅へと戻る。コゼットのマックブックに入っている原稿データをプリントし、仕事で忙しいコゼットにかわり、エマが各社に原稿を見せに行った。
道中、許可をもらいエマはコゼットの小説を読んだ。魔法使いが登場する子供向けのファンタジー小説で、とてもよくできていた。主人公の男の子は、妹のために異世界で大冒険をするのだ。その旅の中で少年は仲間の大切さや家族の絆を知り、最後、元の世界に戻るシーンは涙なしには読めないほどだ。
「ありきたり」
「つまらない」
けれど、出版社の反応は冷たかった。これがかの有名セレブのコゼット・トンプソンのものだといえば反応はもう少し違ったものになったのかもしれないけれど、それはコゼットが望むことではなかった。あくまでもエマはとある素人作家の代理人として出版社を行脚した。
十四社目に断られたころには、日がとっぷりと暮れていた。コゼットから電話がかかってくる。
「どうだった?」
その声には隠しきれない期待の色がある。それを裏切ってしまうのが心苦しくて、エマは言葉を慎重に選んだ。
「ごめんなさい。私のセールスが下手で。どこの会社も……」
「そう」努めて、コゼットが平気そうなふりをしているのが伝わってくる。「そうね。仕方がないわ」
「で、でもまだ当たってない会社はあります。明日はそこに行って──」
「もういいわ!」
アイフォンから大きな声が聞こえる。初めて声を荒げたコゼットに、エマは驚く。
「コゼットさん」
「もういい。小説なんて書かなければよかった。夢なんて、見なければよかったわ」
「そんなことありません。諦めちゃだめですよ」
そう言いながらも、エマはコゼットの気持ちが痛いほどわかった。自分も同じだったからだ。
学生時代、ドレスのことなら自分はピカイチだと思っていた。けれど就職活動でうまくいくのは自分より喋りがうまくて、外面の良い子ばかり。憧れのブランドからたくさんの不採用通知を受けた。運良く一社だけ合格通知が来たのが今働いているブランドだ。
エマはそれまで知らなかった。努力が裏切られる瞬間は悲しいけれど存在する。けれどだからといって努力なくしては成功がないと言うこともまた真理だということに。
「無理よ……」
コゼットも学生時代のエマと同じ、失敗をしたことがないのだ。自分がピカイチだと信じていた。けれど現実はあまたの星の中の六等星に過ぎないと知る。現実に打ちのめされる。
「けど、コゼットさん」
「……あなたの仕事は私のドレスを作ることでしょう。面倒ごとに付き合わせて悪かったわね。もういい。明日、あなたが持ってくるドレスで契約する。それがどんなドレスでも、絶対に契約するわ」
ツーツーという音がする。電話を切られたのだ。
「コゼットさん……」
期待を裏切られるのはいつだって辛い。けれど、コゼットはまだ知らない。悔しいと思うのは、まだ自分の可能性を心のどこかで信じているからだ。
『君ならできるよ、エマ』
脳裏に蘇るのは、あのときのユーリの台詞だった。
そう。今こそ、魔法が必要なのだ。
翌朝。映画祭当日。エマは大きなスーツケースを持ってトンプソン邸を訪れた。
「コゼットさん! ドレスができあがりました!」
「大きな声で言わなくとも聞こえてるわ。契約書はどれ?」
「これです」
コゼットはドレスを見ることなく、渡された紙にサインをした。
「着替えるわ」
「はい。お手伝いします」
そう言ってエマは、スーツケースからドレスを取り出す。
「それ……」
コゼットはドレスを見て思わずという風に固まった。美しいエレガントなドレープ。シアーシルクシフォン素材の柔らかな布地。エレガントに仕上げられた青いドレス。
「私の魔法使いじゃない……」
エマが作ったドレスはコゼットの小説に登場する魔法使いのドレスだった。
「そうです。今のコゼットさんにもっとも必要なもの。それは魔法です。私は魔法使いになったつもりで、いつもドレスを作っています。その魔法で、一人でも多くの人に笑顔になってほしいから。きっとコゼットさんも同じだと思ったんです。自分の書いた小説で、人を笑顔にする、そんな魔法をかける。……怖がらないで。諦めないでください」エマは強く、そう訴える。「まだ魔法は始まったばかりなんです」
「エマ……」
コゼットは言葉を探していた。けれど、きっと胸がいっぱいなのだろう。何も言葉が出てこない。
「私。だって、こんな素敵なドレス、はじめて着る……」
「ありがとうございます」
「できるかな。うまく、いくかしら?」
「それは誰にもわかりません。不幸な結果に終わるかもしれません。けど、きっといつか魔法は誰かの世界を変えます。たとえそれがたった一人の世界だけだとしても、私たちからすればそれは、何にも代えがたい幸福なはずです」
コゼットはぎゅっとドレスを抱きしめた。
「そう。そうね。誰か一人だけでも、私の物語を読んで、世界がより良いものになってくれるならそれ以上の幸せはないわ」
エマは微笑む。
「さあ、早く着替えましょう。映画祭が始まってしまいます!」
「ええ」
ブルーのドレスに着替えたコゼットは運転手が運転する高級車の中に入っていく。エマとはここでお別れだ。
「さよなら、エマ。どうもありがとう」
「ドレスがお気に召していただいて何よりです」
「行ってくるわ」
そういうコゼットの顔には今まで見たことのない微笑みが浮かんでいた。
ドレスには、魔法の力がある。
きっとそれは疑いようのない真実だ。ママの言っていたことはやっぱり正しかった。
今日も、明日も、私の夢は変わらない。
最高の、魔法使いになることだ。
魔法使いの縫い針 北原小五 @AONeKO_09
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