第五十一時限目

桂太君がこぐ自転車はあっという間に学校へ到着。




午前の授業が終わり、丁度お昼休みに入った所だった。




「拓と菜緒呼んでくるから、結芽ちゃんは中庭で待ってて!」




「拓…きっと来ないよ…」




「ほら~、またそうやってマイナス波を発生する~」




桂太君が、伸ばした携帯のアンテナであたしのおでこをつつく。




「そんな顔してると幸せ掴めないよ?」




「……」




「とにかくっ、先に中庭行っててね!」




あたしの返事を聞く事すらせず、桂太君は駆け足で2階へと階段を登って行った。




(嫌だなぁ…顔見たくないよ…)




生徒が楽しそうに廊下で立ち話をする中、あたしは1人暗い影を背負いながら歩き、嫌々ながらも中庭へ着いた。




湿っている芝生を歩き、段差になっているコンクリートの上に腰を下ろす。




(お腹空いたなぁ…こんな時でもお腹って空くんだ…)




中庭から見える教室の窓際では、友達同士や恋人達が仲良く昼食を取る姿が見える。


(あ、『あ~ん』ってしてる…そーゆうのは家でやってよ…)




人の幸せに軽く嫉妬しながら、バックの中に入っていたお茶を取り出そうとした時…




「竹内…!?」




寄り掛かっていた壁の頭上にある窓から、誰かがあたしに声を掛けた。




「ん…?」




顔だけを上に向け、声を掛けた人物を確認する。




「霧島君っ!?」




「どうしたの!?こんな場所に1人で…」




「あ…うん、菜緒達を待ってて…」




(ビックリしたぁ…)





あの日以来…




霧島君があたしの家まで、わざわざバックを持って来てくれた日以来…




霧島君はあまりあたしに近寄らなくなっていた。




勿論同じクラスだから会話はする。




でも、以前の様にメールや突然家に訪問するとゆう事がピタリと無くなっていたのだった。





「何か…目が腫れてるっぽいけど…」




霧島君が目を細めてあたしの顔を見る。



「え!?あっ、何か昨日寝てる時に誰かに殴られたみたいで…」




「何それっ(笑)モコは元気?」




「モコ?あの子、値段が高いご飯しか食べないんですけど…」




「あはっ(笑)一体誰に似たんだろーねぇ?」



ほんの数分間だったけど、正直あたしは霧島君と話た事で少しだけ気分が楽になった。



本当、都合がいいあたし




前は霧島君に対してイライラしたりしていたのに、今は屈託の無い笑顔に癒されていた。



「そういや松澤も遅刻して来てたよ?一緒じゃ無かったんだ!?」



拓の名前を出され、あたしの顔がひきつる。



「そ、そうなの!?知らなかった~」




「3時間目の授業中に来たと思ったら、4時間目の授業は顔出さなくてさ…」




「トイレにでも行ってたんじゃないの!?」



3時間目の休み時間に、拓はきっと桂太君と菜緒に連れ出されたのだろう。




そして、そのまま話を聞き出した桂太君が泣いていた菜緒を拓の元に残し、あたしを迎えに来てくれたに違いない。



「松澤とケンカでもした?」




「ケンカなんて日常茶飯事だよっ(笑)」




「そっか…ま、俺が絡むとろくな事になんないもんね(笑)」




「別にそんな事…」




「いーのいーのっ!押してばっかりじゃダメだって事に気付いたからさ~」




苦笑した霧島君が、何処からかキャンディを取り出してあたしに差し出した。




「飴あげるっ!」




「あ…ありがと」




「その飴、酸っぱいから泣いた分の塩分位は取り戻せるんじゃないかな~?」




頬杖を付き、ニヤリと霧島君が笑う。




「だっ、だから泣いてないってば!」




「そうだったねぇ~(笑)あ、ほら待ち人が3人来たよ!」




(え…?3人…?)




「じゃ、俺行くね~!バイバイっ!」




「あっ、飴ありがとね!バイバイっ」




霧島君と入れ違いで、あたしの背後から複数の歩く音が聞こえて来る。




(3人って事は…)




霧島君から貰った飴をギュッと握り、あたしは近付いてくる3人の方へ体を向けた。






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