第五十時限目

「何処に行くつもりだったの?」




余程疲れたのか、膝に両手をつき屈んだ状態であたしに聞いて来る。




「あ…、帰ろうかと…」




「何で?」




「今日はもう拓に会いたくなくて…」




「『今日は』じゃなくて『今日から』なんじゃないの?」




桂太君の言葉に、図星だったあたしは黙り込んでしまった。




「まだ決めつけるのは早いよね?」




「でも、拓のお母さんが…」




「拓の親父が結芽ちゃんのお父さんだってのは、単なる憶測にしか過ぎないじゃん?」




「……」




あたしだってそう思いたい。




でも、2人が出会って駆け落ちまでの期間を考えてしまうと、どうしても納得せざるを得なかった。




「結芽ちゃん」




「何?」




「拓と別れちゃダメだ」




「無理だよ…(笑)だって拓、あたしが憎いって言ってたもん」




桂太君の顔が一瞬歪んだ。




「あいつ、そんな事言ったのかよ…」



「拓は悪くないんだよっ!?あたしは憎まれて当たり前…」




「結芽ちゃん…」




あたしの涙が流れるのと同時に、学校のチャイムが聞こえて来た。



「結芽ちゃん、もう一回拓と話してみよ?」



「もうダメだよ」




「拓だって、まだ結芽ちゃんの事大好きなはずだよっ!?」




あたしの自転車を、桂太君が強引に奪い取る。



「自転車返してっ…」



「拓を支えてやれるのは結芽ちゃんしかいないんだよっ!!」




「そんなのっ…そんなの拓の口から聞かなきゃ意味無いよっ」




「…兄と妹だからなんなんだよ」




桂太君があたしの両腕を掴んだ瞬間、あたしの自転車は大きな音を出して地面に叩き付けられた。




「桂太君いたいっ…」




「俺と菜緒は絶対認めないから」




「え?」




「学校に行こう、菜緒も待ってる」




桂太君が自転車を起こし、ゆっくりとまたがる。




「後ろ乗って」




「……」




「言っとくけど、これ以上菜緒を泣かせたら、結芽ちゃんでも許さないよ?」



(菜緒…今も泣いてくれてるのかな…)




「結芽ちゃん、すぐ諦めるなよ」




「……」




「俺と菜緒が、倒れない様に結芽ちゃんを支えてやるからっ」




「桂太君…」




あたしの方を振り向き、悪戯っぽく歯を出して笑った。




「第一、結芽ちゃんみたいな天然素材娘は拓じゃないと世話出来ないからっ!」




「失礼な…」




桂太君につられ、あたしも少し笑顔になる。




「ホラッ、乗った乗った!」




「…う、うん」




自転車の荷台に座り、桂太君がゆっくりとこぎ出した。




「結芽ちゃん」




「何?」




「幸せは自分で掴むんだからねっ!」




「…分かってる」




99%の不安と、たった1%の期待を胸に抱え、あたしは菜緒や拓がいる学校へと向かった。



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