第四十七時限目
(もしかして話ってこれ?凄いおめでたい話じゃん!)
「いんだよっ、俺は言われた時に散々祝ってやったから」
「良かったねっ、あの時に言われたんでしょ?…あたしに言ってくれても良かったのに…」
以前、何かのテレビで誰かが言ってた言葉。
『赤ちゃんはママを選んでお腹に宿る』って。
『この人に育てられたい』
『この人に愛されたい』
そう願いながら、頑張って頑張ってお母さんのお腹に命を宿って…
「おばさん…嬉しいだろうね」
「でも年だからな…色々不安はあるみたいだぞ」
「大丈夫だよ!きっと2人に似て強くて優しい子が産まれるよ…」
舞い上がっていたあたし
でも、それはほんの一時の喜びでしか無かった事に気付いた。
「拓もお兄ちゃんになるんだねっ!」
「ならねぇよ」
「またまたぁ~(笑)本当は飛び上がる位嬉しいくせにぃ!」
すかした顔でタバコを吸う拓の脇腹を軽く肘で押す。
「お前は嬉しいかよ?」
「当たり前じゃんっ!」
「俺が兄貴になる事が!?」
「うんっ、良かったねぇ~!」
純粋に
本当、ただ純粋にあたしは嬉しいだけだった。
拓のこの言葉を聞くまでは…
「俺が…俺がお前の兄貴でもかよ!?」
「……え?」
小雨だった雨も止み、静まり帰った休憩所の中であたしと拓の声が響き渡る。
「…何?(笑)アメリカンジョーク?」
「……」
「バカじゃないの?あたしがこんな嘘にっ…」
「言っただろ『お前次第だ』って…」
初めてかもしれない
喋りたいのに、どうしても声が喉を伝って外に出てくれない。
「何か言えよ」
「……」
「結芽っ!」
拓の手が、あたしの肩を大きく揺する。
(拓が…あたしのお兄ちゃん…?)
ぬるくなりかけている缶コーヒーを握り締め、あたしは謎とゆう闇をさ迷っていた。
「…いっ」
「……」
「おいっ!」
あれからどれ程の時間が過ぎたのだろう
何分かもしれないし、何10分かもしれない。
あたしは、拓の一喝によって再び現実へと戻された。
「…え?あ、何…?」
「何じゃねーだろ」
「だって…拓があたしのお兄ちゃんだなんて…」
誰だって信じる訳ない。
ましてや、拓はあたしの大好きな人
それが突然『彼氏と彼女』から『兄と妹』に変わるなんて…
「誰が言ったの?証拠は?」
「おじさんだよ」
「和也さん!?…ならきっと冗談だよ!」
「結芽…」
あたしの気持ちとは裏腹に、灰色だった雲間からは、光のシャワーが流れ出る。
「…何も言わなくていいから…今から俺が言う話、ちゃんと聞いてろよ」
「……」
「おい」
あたしは怖かった
これ以上聞いてしまったら
この話が本当であったならば…きっとあたしは今まで通り拓に接すれないかもしれない。
「…聞きたくないよ」
「何でだよ」
「だってっ…普通に考えてあり得ないよっ!」
「そんなのっ、俺だって同じだろーがっ!自分ばっかり被害者面すんなっ!」
拓が、飲みかけのコーラを地面に叩き付けた。
「物に当たらないでよっ!」
「俺が悪いのかよ!?」
「誰もそんな事っ…」
「一番悪いのはお袋を腹ませたお前の親父じゃねーのかよっ!?」
拓の言葉が鋭い矢となり、もの凄い勢いであたしの胸に突き刺さる。
(拓…今何て言ったの?)
「拓…」
「お前が俺ん家に泊まった日、おじさん達温泉になんか行って無かったんだ」
「え?」
抑えてた物を吐き出すかの様に、拓は次々と話し始める。
「…富山に…お袋に会いに行ってたんだ」
(和也さん達が…?でも、今更何で…?)
それから、あたしは相槌すら打つ事無くただ話し続ける拓の言葉に耳を傾けた。
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