第四十六時限目

「わりぃけど、学校午後から行こうぜ。それまでには話終わらせっから」




「だから、何の話?」



「公園着いたら話す」



「公園?」




「いつもの公園…」




ここまでの話の流れを見れば、どんなにバカなあたしだって決していい話じゃない事位想像がつく。




そして




そんな話を黙って受け入れる様な素直な女じゃない事位…





「お腹痛い」




「あ!?」




「倒れる。だから帰る」




拓から乱暴に自転車を奪い、逃げる様に自転車にまたがる。




「それは無しだろ」




「具合悪いの!横になりたい」




ペダルに足を掛けた時、拓があたしの前に仁王立ちし、カゴを強く掴んだ。





「お前、俺に何でも話せって言ったよな?」



鳥肌が立つ程、あたしを睨む拓の視線。




「学校休んでた理由や避けてた理由、聞きたいって言ってたよな!?」





あたしはあまりの怖さにわざと傘を深くさした。



(今朝…菜緒達と一緒に学校行けば良かった…)




後悔の念が、あたしの頭を駆け巡る。




「公園なんて…面倒だから今ここで話して」



「嫌だ。落ち着いて話せねぇ」




「場所が何処であれ、嫌な話なら落ち着いてなんかいられない」




一歩も引かないあたしの態度に、拓が大きくため息をついた。




「タバコだって吸いてぇし…それに……」




「何…」




「……本当に大事な話なんだ…」




こっちが泣きそうになる程伝わってくる拓の悲しみ混じりの言葉。



「結芽、付いて来いよ…」




あたしを残し、ゆっくりと公園へと歩き出す拓。




(今逃げたら、きっとあたし達はここで終る…)




雨は段々と小降りになり、色々な雑音が細かく耳に入り始める。




そんな中、あたしは重い足に力を入れ、遠ざかる拓の背中を追い始めた。




公園までの道のり。




あたしにとって、それは寿命が縮む思いだった。




小雨になったとはいえ、まだまだどんよりとした灰色の空。




そんな中、拓のペースで歩き続けたあたし達はあっという間に目的地である公園に着いた。





(行きたくない時に限って瞬間移動したみたいに早く着くんだよなぁ…)




「休憩所に座ろうぜ。あそこなら屋根あっから濡れねぇだろ」




当然の如く、公園の周りや中にはあたし達の姿しか無い。




普段子供達やウォーキング、犬の散歩で賑わっているはずのこの空間に、あたしは若干違和感を覚えた。





「何か飲むか?」




休憩所のすぐ隣にある自動販売機の前




ズボンから財布を取り出した拓が言った。




「…いらない」




「ジュース位買ってやるけど」




「本当にいい。…それより勿体ぶらないで早く話して」




『お楽しみは後で』




なんて言える気分じゃない。



「お前、意外とせっかちなんだな(笑)」




そう呟きながら、拓は小銭を自動販売機に投入し、音を立てながら降りて来たコーラを取り出した。




「そこ、座れば?」




「拓が先に座りなよ」



「どっちが先でも同じだろーが」




「…喉渇いた。やっぱりジュース買う」




「あ!?意味分かんねぇな…」




拓が一度しまった財布を取り出す。



「自分のお金で買うからいい」




「何キレてんの?」




「…別に」




『早く聞いてスッキリしたい』とゆう自分と、『聞くのが怖い』とゆう天邪鬼な自分が、頭の中で葛藤する。




「早く買えよ」




「選んでるのっ」




炭酸を飲んで気分だけでもスッキリしたかったあたし




なのに、何を思ったのか飲めるはずもないブラックコーヒーのボタンを押してしまった。



「…お前間違っただろ」




「…全然」




「俺の飲めば?」




「結構です」



意地っ張りなあたしはブラックコーヒーを一気飲みし、ある意味気合いが入った所で、いざ、拓の話を聞く為に休憩所の椅子へと腰を下ろした。





「で?話って何」




緊張で声が上擦ってしまわぬ様、いつもより声のトーンを低くして喋るあたし。




「おばさんがさ…」




「……」




「妊娠したんだってさ」




「……妊…娠!?」




「そう、妊娠。2人も信じらんねぇって大喜びしてた」





おばさんが妊娠…




『出来ない体』




『頑張ってみたけど諦めた』




以前、2人はそんな風に言って無理に笑ってたっけ…




「それは嘘じゃないよね?」




「嘘付いてるとしたら、俺じゃなくてあのおっさんだな」




拓がポケットからタバコを取り出す。




「ちょっと!タバコなんか吸ってる場合じゃないじゃん!おばさんに赤ちゃんが出来たんだよっ!?」



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