第四十八時限目

16年間、ずっと迷宮入りになっていた疑問…



それがゆっくりと証されて行った。






拓の誕生日の2日前、



和也さん宛てにある荷物が届いた。




住所も名前も無く、綺麗に包装された中には



『拓に渡して下さい』



とだけ書かれてある便箋と、とても高価な腕時計が入っていた。




直感で拓の母親からだと気付いた和也さんは、今まで一度たりとも連絡をよこさなかったのを、今更になって誕生日を祝おうとする拓の母親に激怒し、最初腕時計を捨てたらしい。




でも、それに気付いたおばさんが『妊娠の報告も兼ねて』と言う提案で、拓の母親の本音を聞きに富山へと足を運んだ。





母親の実家の住所は、以前拓の父親から聞いていた事もあり、途中迷ったりもしたが何とか無事に到着。




和也さんだと必ずケンカ腰しになる事を予想したおばさんは、自ら母親の家に出迎い、半ば嫌がる母親を外へと連れ出した。



『お金に余裕があったから』




ただ一言、そう言った母親に和也さんは案の定激怒。




本当は和也さんと同じく罵声を浴びせたかったおばさんも一呼吸置き、第三者となって間に入ったらしい。




2時間も掛けて話し合いをした中、母親が口にした言葉は




『知らない』


『覚えない』




の一点ばり。




話し合いが無意味だと諦めた和也さん達は、結局何も解決しないまま拓の母親を家まで送り届けた。




そして別れ際




拓の母親は吐き捨てる様に和也さん達にこう言った。




『拓の本当の父親はあの人じゃない。だからもう来ないでくれ』




と…。








「俺の親父…何も知らねぇで死んだんだぜ…?」




話しを終え、拓が深呼吸をした後ゆっくり目を閉じた。




「…嘘だよっ!拓のお父さんは絶対っ…」




「親父とお袋…B型なんだ」




タバコを一本持ち、拓が休憩所から公園へと向かう。



「血液型…?」




「そう、なのに俺はA型…今思えば可笑しいよな(笑)」




ふかしたタバコの煙が水色の空へて消えて行く。




「じゃぁ…」




「お袋がその近辺に付き合ってた男って言ったら、お前の親父しかいないだろ…」





あたしの血液型はA。



そして




お母さんとお父さんも。




拓のお母さんがB型でも、あたしのお父さんがA型なら拓はA型としても納得は出来る…





「お袋が俺を残して居なくなった理由がやっと分かったよ」




「……」




「間違って出来た子供だったんだろ…」





こんな時




こんな言葉を言わせてしまった時




あたしは何を言ったら良かったのだろう…





「ごめんなさい…」




「何でお前が謝んだよ…」




「拓…ごめんね」




こんな事しか言えない自分に腹が立ち、悔し涙が溢れ出る。




「俺も…謝る事がある」



「…何?」




「一つは、さっきお前の親父を酷く言った事。…本当にごめん」




「そんな事…」




「そしてもう一つ…」



止まらない胸騒ぎ




「『お前次第だ』なんて言ったけど…」




「……」




「俺はやっぱりお袋とお前の親父が憎いよ」



始まりなのだろうか



それとも終わりを告げたのだろうか…




学校のチャイムが微かに聞こえた。





「俺…お前が幸せならそれでいいや」




「……」




「…本当にそう思ってたんだ…」





いつから出てたんだろう




拓の後ろには、綺麗な虹が姿を現していた。




「でも、ごめん結芽…」



意地っ張りの拓が




弱音を吐かない拓が




初めてあたしに見せた一粒の涙…





「俺…お前と一緒にいんのが辛い…」




「……」




「辛いんだ…」







『別れたくない』




そう素直に思える自分に腹が立つ。



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