第四十四時限目
「…菜緒っ!!」
桂太君が持つ傘を抜け、菜緒が走ってあたしの方へと向かって来る。
「おはよっ…拓、まだ?」
「うん…電車に居なかった?」
「うん…」
時間差で桂太君が到着。
「あれ?結芽ちゃん今日はメガネしてないの?」
「え!?あぁ、コンタクト届いたからね(笑)」
「そっか」
こんな会話をしていても、あたしの目線は常に駅から出てくる生徒達を追ってしまう。
「…ねぇ結芽」
「ん?」
「あたし達ともう学校行こう?きっと今日も来ないよ」
「結芽ちゃんズブ濡れじゃん、風邪引くよ?」
「うん…」
哀れんだ目で見る2人に、あたしはただ苦笑いをするだけ。
「ごめんね、もう少しだけ待ってみる」
「結芽…」
「もう少し待ってダメだったらすぐ学校向かうから!」
「俺等も待とうか?」
「大丈夫っ!3人で待つなんて拓には勿体無いよ(笑)」
2人が困った様子で互いに顔を見合わせる。
「はいっ、行った行ったっ!!また後でね!」
こうしてあたしは2人の背中を押し、無理矢理菜緒達を学校へと送り出した。
「さてっ、人間観察でもして気長に待つかっ!」
目の前には笑顔で朝の挨拶を交わす生徒達
(へぇ~あの2人付き合ってたんだ…知らなかった)
「結芽おはよ~」
「あ、おはよ~」
「何してんの?あ、もしかして松澤君?」
「ハハハ(笑)あ、田村に遅刻するって言って貰っていい?」
「分かった~じゃ後でね~」
同じクラスの女の子との会話に、少しだけ気が緩んだあたし
「…ぶ、ぶえっくしゅっ」
(さ、寒いな…)
濡れたワイシャツが肌にくっつき、冷たさが体に浸透する。
(ハンカチ…持ってたっけかな…)
ハンカチをバックの中に入れたのは、思い出せない程随分前の事。
「あ、あったっ!…凄い綺麗だな~(笑)」
バックの内ポケットに入っていたハンカチをゴソゴソと取り出そうとした時…
「おい、水も滴るアホ女」
あたしの頭上から、聞き慣れた声が耳に入って来た。
「…拓っ!!」
「何で傘さしてんのに濡れてんだよ」
「片手で自転車さしながら傘をこいで……って、どうしたの!?」
「は!?」
ちんぷんかんぷんなあたしの言葉に、拓が眉間に皺を寄せてあたしを見る。
「お前には俺が出稼ぎに行く様に見えんのか!?」
「…見えません」
「バカかお前は…ホラ行くぞ」
「わ、ちょっと待って!」
側に停めておいた自転車を動かし、拓がスタスタと歩き出す。
(拓…怒ってないのかな…)
雨はどんどん強くなるばかり。
あたしは急いでハンカチをバックにしまい、掛け足で拓の後を追った。
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